生成AI時代にこそ、「学際的スキル」が生きる 企業と個人の“悪い思い込み”を打破するには?(3/3 ページ)
海外で技術的失業を防ぎ、成長分野への労働移動を実現する解決策として注目されてきたリスキリングですが、AIやロボットなどの自動化テクノロジーの日進月歩の進化が続く中、人間の仕事は何が残るのか? という議論がついに日本でも活発になってきました。
サイロ化した組織から、スキル起点の「つながる」組織へ
サイロ化した組織では、部門ごとに専門性や言語が異なり、連携が滞りがちです。組織の中で異なる専門性を持つ人材同士が議論するとどうしても前提となる知識や経験が異なるため衝突も生まれます。デジタルトランスフォーメーションを実現するためにはデジタル化を推進した経験と、対象となる業界のビジネス経験の両方を理解している必要があります。リスキリングの現場においては、新しい成長分野、特にデジタル分野のスキルと、人材育成分野のスキルの両方が求められます。
学際的スキルを持つ人材は複数分野の知識を理解できるため、各部門の専門用語や視点を橋渡しし、相互理解を促進します。これにより情報の共有が円滑になり、部門間の壁を越えた協働が実現します。学際的スキルを持つ人材が、異なる分野同士をつなげる橋渡し役となるのです。組織内でこうした異なる分野の専門性や学際的スキルを併せ持つブリッジ人材の創出が今後ますます重要になります。
上の図は前述のスキルベース組織の説明に用いた図です。真ん中のマーケティングで多彩かつ学際的なスキルセットを持つ人材が、スキル支援を通じて、人事部や営業部の人材とのつながりを生み出すハブ的存在になっていることが分かります。こうした組織のサイロ化を超えたつながりを強化していくことが、新たな価値提供を生み出す原動力になるのです。
イノベーションの源泉となる人材の創出
学際的スキルを持つ人材は、例えばデジタル技術だけでなく心理学や社会学、デザイン、ビジネス戦略など複数領域の知識を習得し、それらを横断的に活用できるため、組織内で多様な専門家を橋渡しし、異なる視点を結び付ける役を担うことができます。
結果として、新規事業やサービス、業務プロセスの革新につながる独創的なアイデアが創出されやすくなります。特にAIロボット時代のように技術革新が急速な環境では、多様な知識を融合できる人材の価値が飛躍的に高まります。学際的スキルを持つ人が組織のイノベーションを生み出すハブ的存在になっていくのではないか、と思います。
組織内で20代と60代の社員のスキルの掛け合わせを行うことで、知識やスキルの継承を行い、新たな価値を創出するチャンスを作ることもできます。また学際的スキルを持った人材が、社外との連結役「境界連結者」(バウンダリースパナー)を担うことで、新しいスキルの組み合わせによるイノベーション創出につながるきっかけを作り出すことができるのではないかと考えます。
長期的な観点で、学際的スキルを持つ人材が、イノベーション創出を担い、そして成長事業を生み出し、結果として、持続的な企業運営を可能にするのではないでしょうか。
関連記事
なぜ日本の会社員は「学ばない」のか 個人を責める前に企業が見直すべき組織作りのキホン
米国でCareer Cushioning=企業に勤める人たちが「万が一の解雇」に備え、スムーズに転職できるように勉強すること、が流行しています。一方、日本人の多くは学んでいません。日本人が学ばない背景には、組織の問題が潜んでいるのです。
「リスキリングで中高年が活躍!」の猛烈な違和感 ホンネは「低賃金労働者ほしい」か?
「中高年の転職」や「成長産業への人材移動」の必要性が声高に論じられるようになった。16日に閣議決定された「骨太の方針」でも、成長産業への人材移動と人への投資が強調され、政府の支援も計画されている。しかし、企業が欲しいのは経験者だという一面も。こうした動きは、何のため、誰のためのものなのか?
