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「K-ビューティー」の商品力で勝負 韓国コスメ企業の日本戦略とは?

ガールズグループIVEのREIがアンバサダーを務める傘下ブランドの1つ「LUNA」を通じて、化粧品と生活用品を製造販売する韓国の愛敬(エギョン)産業は、日本市場の販売拡大を図っている。同社ビューティー部門のイ・ヒョンジョン化粧品事業部 化粧品事業部長 常務取締役に話を聞いた。

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 韓国コスメの日本市場への進出が加速している。

 東京・新大久保には韓国系のさまざまな店が並ぶ。中には韓国コスメを網羅的に扱っている店もある。今では、新大久保以外の雑貨店やドラッグストアなどでも普通に韓国の化粧品ブランドが陳列されている状況だ。 

 化粧品と生活用品を製造販売する韓国の愛敬(エギョン)産業は、ガールズグループIVEのREIがアンバサダーを務める傘下ブランドの1つ「LUNA」を通じて、日本市場の販売拡大を図っている。同社ビューティー部門のイ・ヒョンジョン(Hyun Jung Lee)化粧品事業部 化粧品事業部長 常務取締役に話を聞いた。


イ・ヒョンジョン 愛敬産業 化粧品事業部 化粧品事業部長 常務取締役。1978年韓国デジョン生まれ。忠南大学産業美術学科学士卒業。2002〜2008年 LG電子韓国マーケティングデザイングループ、ハイプラザ販売企画グループ勤務。2008年〜2021年 CJグループCJ ONSTYLE・OLIVE YOUNGでグローバル事業部新事業および営業、EC、MD、駐在員。2021年〜愛敬産業 化粧品事業部総括常務

時間軸のずれを理解し、市場開拓を進める

 若年層のトレンドを調査している「TesTeeLab」が2023年10月に発表した「韓国コスメに関する基本調査」によると、「韓国コスメ使用経験率」については、「現在使用している」と回答した10代は52.0%、20代は42.8%、30代は30.3%と、Z世代に高く支持されていることが分かった。

 「韓国コスメ購入理由」について10代と20代を見ると、パーセンテージは少々異なるもののトップ3は1位「効果(発色など)が期待できるから」、2位「口コミ・評判が良いから」、3位「価格が安いから」の順となっている。質の面でも高い評価を受けているようだ。


愛敬産業は、1954年に韓国最初の美容石鹼(せっけん)を発売後、化粧品事業に進出した

コンシーラーは日本市場にぴったり

 愛敬産業は、1954年に韓国最初の美容石鹼(せっけん)を発売後、化粧品事業に進出した。2025年6月現在で、売上高は6791億ウォン(約710億円)、従業員数は958人だ。LUNAは2006年に誕生し、現在は日本、韓国のほか、台湾、中国、マレーシア、シンガポールなどアジアを中心に、米国、オーストラリア、ウクライナなど26カ国・地域に進出している。


2025年6月現在で、売上高は6791億ウォン(約710億円)、従業員数は958人だ

 イ・エグゼクティブ・ディレクターは「化粧品事業の売上高は、韓国国内よりグローバルの方が高い」と話す。

 「グローバル展開のために、スキンケアブランドなら一つの商品を韓国と海外で販売できますが、メークブランドであるLUNAは一つの商品で複数のカラーを販売することになります。LUNAのベストセラー『ロングラスティングチップコンシーラー』は、グローバル展開のために20のカラーSKUを用意せざるを得ませんでした」


LUNAは日本、韓国のほか、台湾、中国、マレーシア、シンガポールなどアジアを中心に、米国、オーストラリア、ウクライナなど26カ国・地域に進出している

 世界で売るには、商品群も色も多彩でなければならないようだ。海外に進出するための戦略は、一筋縄ではいかことを強調する。

 LUNAは、数多あるコスメの中でもコンシーラーが有名だ。「ロングラスティングチップコンシーラー」は韓国のドラッグストア「オリーブヤング」で6年連続売上1位を獲得し、累計販売数1000万個以上を販売した。それをさらに進化させたのが、今回、日本に投入した「グラインディングコンシールバター」だ。 

 強みを持つコンシーラーを日本に投入した理由を聞くと「まず、日本市場を重要視しています。化粧前の基本はベースメイクですが、女性は肌のキメ、くすみ、シミなどいろいろと隠したいところがあります。日本の女性は、肌を自然に見せられる化粧品が重要だと考えているため、より多様なニーズに合わせ、より専門的なコンシーラーが必要だと考えています」と話す。コンシーラーに自信を持つ愛敬産業と、日本市場の需要がマッチしたようだ。

 9月初旬にグラインディングコンシールバターのプロモーションを、オリーブヤングで実施したところ、よく売れたという。この実績から、同商品を日本で売るのは、当然の結果だった。一方「日本市場でお客さまから信頼され、愛用していただくまでには、一定の時間がかかることも認識しています」と話す。

 「日本でうまく販売するためのイベントやプロモーションの準備もしていますが、結局のところ、最も大切なのは商品力です。その上で、アーティストとのコラボなどを通じ、販売を促進できればと考えています」

 2025年はIVEのREI、2024年はLE SSERAFIMのSAKURAを起用した。「日本人を起用したのは、『私たちが日本市場に対して本気で取り組んでいきますよ』というメッセージでした」


ガールズグループIVEのREIがアンバサダーを務めるブランド「LUNA」

 なぜ韓国のブランドが、日本をはじめとした世界中に受け入れられ始めたのだろうか?

 「スピード感だと思っています。スピードとはトレンドのことです。InstagramやTikTokなどのSNSを通じて、今はやっていることをいち早く読み取り、その上で商品を作ることが重要なのです」と話し、スピード感のある商品開発が重要だと語る。ちなみに、コスメの業界においては“国ごと”以上に、“世代ごと”の特徴が顕著に表れるとも話していた。

 スピード感が重要とする一方で、日本市場の開拓には時間がかかることも理解している。これは、日本で特定のコスメが広まったと思ったら、韓国ではすでにトレンドが変わっている可能性すらあるということだ。このギャップをどう埋めるのかを聞くと「スピード感の次に重要なのは、ブランドとしてのアイデンティティやコンセプトを持たせること」だと答える。その上で「確かに日本市場に浸透するまでには、長い時間が必要です。ですが日本の方は1回、気に入ったらリピート行動をしてくれるケースが本当に多いのです。このことは化粧品を運用する韓国の全担当者が理解しているでしょう」と話す。

 日本市場で、消費者に愛用してもらうまでの時間のずれが生じるのは覚悟の上で、販売戦略を進めるようだ。「だからこそ、(最終的に)選ばれるには、商品力がモノをいうことになる」と商品力の重要性をあらためて強調した。

 新商品の購入に慎重な日本人を相手にするため、まずは体験してもらう機会をどんどん作ろうとしている。体験場所とは、オフラインでの販路の拡大をし、テスターなどを通じて知ってもらうということかと聞くと「はい、日本市場ではオフラインで、特にドラッグストアは必須な販売経路です」と答えた。

 「ECにはコスメ好きの人は集まりますが、それだけでは日本市場全体には浸透しきれないと考えます。オフラインなら、いろいろなタイプのユーザーに会えますから」


コスメ業界においては“国ごと”以上に、“世代ごと”の特徴が顕著に表れる

AIはビューティー市場には浸透しきらない

 現在では美容市場でも、さまざま業務にAIが活用されている。特にコスメの業界では、すでにAIをさまざまな用途で導入している状況だ。

 「AIに、顔などの画像診断をしてもらって、その人自身にぴったりの商品をリコメンドすることなどをやっています。また、逆に素顔を撮影して、AIの技術を使って化粧をしているかのように見せ、インスタやTikTokにアップするという使われ方もあります」

 AIは商品開発やマーケティングにも役立つと考えているのか?

 「ランニングシューズのような機能性製品であれば、AIによって理想的なものを生産することは可能かもしれません。ですがビューティー市場に関しては、女性はそれぞれが考える『美しさ』を重要視しています。現時点では、AIは完全に浸透することはできないと思います」

 もちろん、商品開発の過程で各種データを見たり、アンケート調査の結果を読んだりするときにAIを活用している。だが、最終判断は人間がしているという。肝心なヒット商品を開発することにおいては、やはりまだまだ人間の力が不可欠のようだ。

K-ビューティーのブランドとして勝負

 以前、韓国のファストフード、マムズタッチのトップにインタビューした。その際に、販売当初はアーティストのLE SSERAFIMをブランドアンバサダーに起用するなど「韓国」を前面に打ち出す一方、最終的には味で勝負したいので、「将来的に(「韓国から来た韓流」という意味での)『K』を取っていきたい」と話していた。LUNAはどうか?


マムズタッチはグローバルスターLE SSERAFIMをブランドアンバサダーに起用

 「今後はK-ビューティーのメークアップブランドとして勝負するのが当然だと考えています。なぜなら、日本のお客さまはK-ビューティーに関して、韓国文化が投影されたポジティブなイメージを持っているからです。そのK-ビューティーとしての『Look & Feel』(見た目や使用感)をお見せしたいと思います」

 マムズタッチとは異なるスタンスのようだ。その一方で、産業が違うにもかかわらず、両者とも商品力を重視しているのは、面白い。愛敬産業は、日本市場の開拓に時間がかかることも覚悟している。

 つまり市場環境を徹底的に分析した上で、日本進出を図っているのだ。今後、同社の存在感が増しても不思議ではない。

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