「AIで人を減らす」経営が加速中? 英調査が示す“人材軽視”の現実とは
経営層は、従業員のスキル研修に投資するよりも、AIや自動化ツール導入によって人員を削減する方向へ動いている可能性がある――これは英国規格協会が10月8日に公表した報告書で示された見解である。
経営層は、従業員のスキル研修に投資するよりも、AIや自動化ツール導入によって人員を削減する方向へ動いている可能性がある――これは英国規格協会(British Standards Institution、BSI)が10月8日に公表した報告書で示された見解である。
調査によると、回答した経営者のうち「AIは人員削減を可能にしている」が4割強を占めた。31%が「新たな人材採用の前にAIソリューションを検討する」と回答。BSIによるAI導入に関する議論の分析でも、「雇用の自動化」に関する議論が「人材育成」に関する議論を大きく上回っていた。
AI活用を重視する企業が見落としている事実
BSIはこの結果について「企業はAIのイノベーション促進や競争優位性への貢献を優先するあまり、人的資本への影響を見落としている可能性がある」と指摘する。
今回の調査は、世界の企業経営者850人以上へのアンケートに加え、AIを活用した分析を通じて多国籍企業の年次報告書などのデータを対象に実施した。その結果、特にエントリーレベルの業務がAIによる代替リスクにさらされていることが明らかになった。回答者の約4分の1が「AIは新人社員の業務の大部分を遂行できる」と答えている。
BSIのCEOであるスーザン・テイラー・マーティン氏は「AIは世界中の企業にとって非常に大きなチャンスだが、生産性や効率性を追求するあまり、“進歩を支えるのは最終的には人である”という事実を忘れてはならない。AIの活用と人材の成長をどう両立させるかが、今の時代を定義する最大の課題だ」と述べた。
報告書では、中小企業が今後のスキル開発の主役になる可能性も指摘している。大企業と比較すると、AIを成長の鍵と考える割合が低く、ジュニア職を削減した企業は大企業の半数に対し中小企業では30%にとどまるという。「中小企業はスキル育成の中核となり、Z世代により多くの雇用・研修機会を提供する“スキル開発の背骨”になり得る」と報告書は結論づけている。
同様の懸念は他の調査でも指摘されている。履歴書作成サービスを提供する米Zetyが7月に発表したレポートでは、Z世代の約4分の3が「今後5年間でAIによって初級職の機会が減少する」と回答。「安全なキャリアとは何か」を再考する必要があると述べている。
一方、General Assemblyが9月に公表した別の調査では、エントリーレベルの求職者の多くがソフトスキル(対人能力)不足のため、現場対応力が十分ではないことも指摘された。これもまた、企業側・個人側の双方でアップスキリング(技能向上)の重要性を示唆する結果である。
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