SaaSはもう限界──営業の“暗黙知”を資産に変えるAIエージェントの可能性(3/4 ページ)
「既存のSaaSは既に限界を迎えている」──こう話すのは、Efficの菅藤達也CEOだ。一体どういうことか。
客に詰められるのが怖くて「ヒアリングできない」若手が多い
構造化された商談データは、営業組織の中で異なる2つの役割を果たす。若手にとっては頼れる先輩として、マネジャーにとってはバイアスのないチームリーダーとして機能する。
マネーフォワードの高木氏は、若手時代の経験を振り返る。「上司から『もっとヒアリングしろ』『もっと掘れ』と言われたが、怖くて聞けなかった」。顧客から予想外の質問が来たとき、答えられずに信頼を失うことを恐れる。結果として、自分の土俵である機能説明や価格の話にとどまり、顧客の本当の課題に踏み込めない。
Efficが開発中のライブアシスト機能は、この心理的障壁を取り除く。蓄積された過去の商談データをもとに、商談中にリアルタイムで助言を提示し、顧客からの難しい質問にも対応できるようサポートする。「答えられない質問が来ても、Efficが返してくれる。だから純粋に顧客のことを聞ける」と高木氏は期待を込める。
現時点でも、商談後の振り返り機能が効果を発揮している。EfficはBANTC(予算、決裁者、ニーズ、時期、競合)の観点から商談を分析し、スコア化する。「予算を聞いていない」「決裁者との接点がない」といった弱点が可視化され、次の商談での改善点が明確になる。
開発中のライブアシスト機能は、商談中にリアルタイムで助言を提示する。過去の成功事例をもとに、顧客の質問への切り返し案や次に聞くべき質問を表示。若手営業が「答えられないのが怖い」という心理的障壁から解放され、顧客の本音を引き出す深いヒアリングが可能になる。ベテランの先輩が隣にいるような安心感を、AIが提供する
Effic Wikiと呼ばれる機能では、過去の商談から抽出されたベストプラクティスが集積される。競合製品の特徴、効果的だった切り返し方、業界特有の課題などが整理され、チャット形式で問いかけると「こう言ったら勝てる」という提案が返ってくる。高木氏は「ベテランの先輩が横にいて、答えられないことは答えてくれる。それをリモート環境で実現している」と表現する。
Effic Wikiは過去の全商談から自動的に知識を抽出し、組織の資産として蓄積する。自社製品の強み、競合との差別化ポイント、顧客の業界特有の課題などが構造化され、いつでも検索可能だ。ベテランが持つ暗黙知が属人化せず、新人でも即座に参照できる。エースプレイヤーの経験が組織全体に還元される仕組みがここにある
営業責任者にとってEfficは、組織の実態を客観的に把握する手段となる。「従来はマネジャーが営業進捗状況をレポートするが、一定のバイアスがかかっている。自分の過去の引き出しの中でしか語れない」と高木氏は指摘する。
Efficは全商談データを俯瞰(ふかん)し、バイアスなく分析する。週次レポートでは商談を統計化し、組織全体の傾向や個々のメンバーの課題を可視化する。リーダーはファクトに基づいた指導ができ、勘や経験だけに頼らない組織運営が可能になる。
「私が離れた後でも、このチームはEfficと共に成長していける」。高木氏のこの言葉は、Efficが営業部長と現場をつなぐリーダークラスの役割を担い始めていることを示唆する。情報を伝達し、メンバーを育成する中間管理職の機能を、AIが補完する時代が来ている。
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