なぜK-POPは伸び続けるのか? ビルボードが語る「ファン起点の成長戦略」:130年企業・ビルボードの変革【後編】(1/2 ページ)
ビルボード各国の成功事例から、音楽配信時代における持続的成長の実践手法に迫る。
ファンの行動をいかにして可視化し、次の展開に変換するか――韓国では特定のアーティストやアイドル、作品などに強い思い入れを持ち、熱心に支持する人々によって形成されるファンコミュニティであるファンダムを起点とした取り組みが注目を集めている。
アジアのビルボードパートナーが一堂に会する初のカンファレンス「Billboard ASIA Conference 2025」(東京・6月27日)の後半セッションで、ビルボード・コリアCEOのユナ・キム氏は、大手芸能事務所・HYBEが開発したアーティストとファンが直接交流できるプラットフォーム「Weverse」(ウィバース)がアクティブユーザー840万人(前年比27%増)に達した成功事例を紹介した。さらに日韓でアーティスト育成から楽曲制作、市場展開まで一体化した協業体制についても述べた。
一方、日本では阪神コンテンツリンク ビルボード事業本部 上席部長の礒﨑誠二氏が、日本版グラミー賞とも呼ばれた国内最大規模の国際音楽祭「Music Awards Japan」(MAJ)出演後にストリーミングが国内で最大49%、海外でも31%伸びた効果測定結果を公開。「非常にいい形でスタートできた」と語った。
礒﨑氏はMAJを日本の知的財産として継続的に育成し、16言語圏のビルボード・ネットワークを通じて「線」から「面」へ市場展開を広げる構想を示した。日韓で示されたこれらの成果は、アジア音楽市場において再現性のある市場成長パターンが実際に動き始めていることを裏付けている。
「130年企業・ビルボードの変革【前編】世界16言語圏へ事業展開 音楽企業の300%成長モデルとは」に引き続き、ビルボード各国の成功事例から、音楽配信時代における持続的成長の実践手法に迫る。
韓国、データインフラでファンダム収益化 K-POP成功を産業化する仕組み
2024年8月に発足したビルボード・コリアCEOのユナ・キム氏は、K-POPの世界的成功を踏まえた次世代ビジネスモデルの構築について語った。同氏は「ビルボード・コリアは、単なるメディアではなく、データに基づいた産業インフラを目標としている」と話す。メディア事業を超えた産業インフラとしての地位確立を目指している。
韓国音楽市場の消費構造分析では、国内音楽が75%、海外音楽が25%という比率を維持しながらも、グローバルジャンルの影響力が拡大している。特にJ-POPの成長は顕著で、ストリーミングは前年の2023年と比べ、17%増加した。
韓国においては大手芸能事務所やテック企業との戦略的パートナーシップを構築し、競争優位性を確保している。HYBE、SM、YG、JYPといった大手事務所に加え、CJ ENMといったエンターテインメント企業やグローバルレーベルとのネットワークを活用したビジネス展開を進めているという。
消費者行動の変化に対応したエンゲージメント戦略も重要な要素だ。Z世代(1990年代後半から2010年代初頭に生まれた世代)が全体の58%、ミレニアル世代(1980年代前半から1990年代半ばまでに生まれた世代)が29%を占める市場構造において、ファンが受動的だったテレビ放送中心の時代と比較し、デジタルプラットフォームによってファンが能動的に参加するようになった。この変化に対応した戦略転換を進めている。
「ファンは、もはや放送を通じてアーティストを待つことはありません。YouTubeで即座に確認し、InstagramやTikTokを通じて、ファンコンテンツに参加しています」(ユナ・キム氏)
HYBEが開発したアーティストとファンが直接交流できるグローバルなファンダムプラットフォーム「Weverse」(ウィバース)の成功は、この戦略の有効性を実証している。2024年基準で840万人以上のアクティブユーザーを記録し、前年の2023年と比較して、27%の増加を達成した。
言語の壁を越える音楽ビジネス バッド・バニーの成功モデル
グローバル音楽市場における言語圏戦略について、ビルボードCEOのマイク・ヴァン氏は興味深い事例を挙げた。プエルトリコ出身のアーティスト・バッド・バニー氏の躍進は、言語の壁を越えたビジネスモデルの可能性を示している。
スペイン語でラップをしながら、世界で最も興行収入の高いツアーを記録した。この成功要因について、マイク・ヴァン氏は消費者行動の変化を指摘している。
「ファンたちが言語を理解していなくても、アーティストが成果を出せるのは、消費者やファンの『好み』が進化し、『良い音楽を聴きたい』という欲求が中心になってきたからです」(マイク・ヴァン氏)」(マイク・ヴァン氏)
Z世代とα世代(2010年から2024年に生まれた世代)は「人類史上最も多民族的で多文化的な世代」であり、ラテン音楽、K-POP、アフロビーツが言語理解を伴わずにアメリカチャートを席巻している現象は、グローバル音楽ビジネスの新たなパラダイムを示している。
日本、「MAJ効果」を他アワードと比較 書籍チャートも展開
阪神コンテンツリンク ビルボード事業本部 上席部長の礒﨑誠二氏は、5月21、22日に開催されたMusic Awards Japan(MAJ)の詳細な効果測定結果を発表した。国内のストリーミング効果は圧倒的で、受賞楽曲が平均31%、パフォーマンス楽曲が平均49%の増加を記録した。海外市場でも受賞楽曲が平均14%、パフォーマンス楽曲が31%の増加を達成している。
「受賞曲として入っている楽曲のところでも、きっちり数字を上げることができていったということで、非常にいい形でスタートできたのではないかと思っています」(礒﨑氏)
注目すべきは藤井風氏の「満ちてゆく」で、MAJ開催後にストリーミング数が上昇し、その後の新曲リリースと連動してさらなる伸びを見せたこと。礒﨑氏は「パフォーマンスのバズが新曲へとうまくつなげられる。IP(知的財産)を線としてつなげ、面にしていくことが実証できた」と分析している。
MAJの効果を客観視するため、紅白歌合戦やMAMA AWARDS、グラミー賞との比較データも公開。地域別では、MAJの影響が日本や台湾、香港、ブラジル、韓国の順で強く現れた。礒﨑氏は「東南アジアへのリーチに関しては予想を外しており、もう一越え欲しかった。まだまだMAMAやグラミー賞ほどに、海外において伸びていく余地がある」と前向きに話す。
ビルボード・ジャパンを運営する阪神コンテンツリンクは、新事業として、10月下旬から「Japan Book Hot 100」を開始する。小売店販売や電子書籍、EC販売、図書館を統合した総合書籍チャートは業界初の取り組みだ。
「音楽でのJapan Hot 100、これはCDセールスやラジオ、カラオケ、ダウンロード、ストリーミング、動画再生、この6つの種類を合わせた総合チャートです。これをブックチャートでもやってみようという試みで、誰も電子とフィジカルを混ぜたランキングを作ったことがないということから始まりました」(礒﨑氏)
礒﨑氏は「MAJを日本の大事な知的財産としてオールジャパンで継続的に育成していく」意義を強調。16の言語圏に渡るビルボードのライセンシー諸国との連携で、日本のアーティストが各国に展開する「線」から「面」への発展の一助となることを目指している。
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