「想像を超えたレベル」 レコチョク責任者がChatGPTに驚愕した理由:音楽業界のIT部門(1/2 ページ)
レコチョクが、生成AIの積極的な活用を進めている。音楽業界は生成AIでどのように変わる可能性があるのか。執行役員に聞いた。
音楽配信サービスや音楽業界向けソリューションを手掛けるレコチョクが、生成AIの積極的な活用を進めている。音楽市場への新たな価値提供の実現が狙いだ。
6月30日には「with AI プロジェクト」を発足。「社内におけるプログラミング開発による業務生産性の向上」と「自社で展開している音楽業界向けソリューションビジネスにおける生成AI活用」の2つの目的を掲げたものだ。8月より、日本マイクロソフトの「Azure OpenAI Service」を採用。社内でChatGPTが利用できる環境として「RecoChat with AI」を構築し、運用を開始した。
レコチョクは「音楽業界のIT部門」を自称して、国内ではいち早い音楽配信事業や、デジタルによるアーティスト支援を展開してきた。音楽業界は生成AIでどのように変わる可能性があるのか。レコチョク執行役員で、次世代ビジネス推進部の部長も兼任する松嶋陽太さんと、同エンジニアリングマネージャーの横田直也さんに聞いた。
松嶋陽太(まつしま・ようた)1973年生まれ。96年大手システム系企業にエンジニアとして就職。その後、学生時代に学んだプログラミングスキルを生かしてフリーのプログラマー、ベンチャー企業を複数立ち上げるなど多くの企業で実績を重ねる。2009年レコチョクに入社。エンジニアの内製化推進、サービスのAWS(Amazon Web Services)全面移行プロジェクトの責任者を務める。21年にweb3プロジェクトを立ち上げ、22年より自社基盤でのNFT提供開始。現在「次世代ビジネス推進部」部長としてNFT、メタバース、生成AIに関するプロジェクトをリードしている。レコチョク執行役員
横田直也(よこた・なおや)1984年生まれ。2007年にヤフーでエンジニアとしてのキャリアをスタート、12年よりサイバーエージェント、14年にレコチョクへ入社。配信基盤のリニューアル、サービスのAWSへの全面移行、アプリ開発などフルスタックエンジニア兼マネージャーとして勤務。21年からweb3プロジェクトを立ち上げ、自社基盤でのNFT発行、23年にはダイナミックNFTの技術を活用して、日本初となるチケット本体をNFTを使ったサービスを事業化。現在は生成AIの全社活用にも取り組んでいる
元プログラマーの役員が確信 「想像を超えたレベル」
──生成AIに着目したきっかけはなんだったのでしょうか。
松嶋: 業務にAIを活用する話は昔から議論をしてきました。例えば、サービス利用者への楽曲のレコメンドなどに使えるかという話はありました。ただ逆に言うと、閉ざされた領域でのAI活用しか考えてこなかったわけです。
考え方が変わった一つのきっかけが、2022年8月に登場したAIによる画像生成サービス「Stable Diffusion」の登場ですね。これに僕が感銘を受けて、ビジネスに活用できないか個人で模索していました。ただ、この時もまだ発展途上だなという感覚がありました。転機となったのが、22年11月のChatGPTの登場ですね。これで業務にも活用できると確信しました。
──ChatGPTでは具体的にどう業務に活用できると思ったのでしょうか。
松嶋: まず会社のサービスを考える際の壁打ち役として使っていたのですが、思った以上にしっかりした回答があって「これはすごいな」と思いました。
業務に使えそうだと思ったのが、プログラミングですね。特にGPT4が出てきてからが衝撃でした。僕自身はもともとプログラマーだったのですが、ここ10年くらいは業務から離れてしまっています。ですから今、機械学習やデータ分析で主流のプログラム言語であるPython(パイソン)は全然いじったことがなかったのですが、こちらから質問を投げるだけでChatGPTがそれをキャッチアップして、Pythonのコードを書いてしまうんですね。その時「これは想像を超えたレベルになっているな」と直感的に確信しました。
──執行役員として、どのように会社組織に生成AIを取り入れようと思いましたか。
松嶋: 最初はほそぼそと社内で実験的に導入しようかと思ったのですが、想像以上に生成AIの進化が早いんですよね。そのやり方だと潮流から取り残される感覚があったので、もうこれは全社の取り組みにしないと駄目だなと思い、with AI プロジェクトを立ち上げました。
──with AI プロジェクト立ち上げ以前から、AI活用を議論していたとのことです。どんな形で模索していたのでしょうか。
横田: はじめは社内のどこで、どんな課題があるかをヒアリングしました。そこで出てきたアイデアの一つがカスタマーサービスです。お客さまからの問い合わせにAIを活用するところから取り組んでいきました。
また、レコチョクでは17年にAWS(Amazon Web Services)へサービスシステムを完全移行するなど全社でクラウド化、業務のDX化を進めていて、社員はSaaS(Software as a Service)を使って業務をしています。普段の業務では2〜3つくらいのSaaSを併用して作業しているのですが、この一つ一つのSaaSが独立していて横でつながっていないんですね。そのため作業習熟や業務に時間がかかっていました。この業務効率化のために生成AIにタスクを自動化するためのスクリプトを生成してもらって、全部の処理をボタン一つでやれるように模索していました。
松嶋: エンジニアでない人でもAIを使い、Pythonで効率化できる部分が革新的だと思いました。プログラム言語を一から覚えるのは大変なので、今まではわれわれがプログラムを作っていたわけです。ですがChatGPTを使うと、エンジニア以外の人でも作り方を教えるだけで、誰でもできてしまいます。そうすればその人のスキルも格段に上がるので、そういう人材を増やしていけば、全体の生産性が上がると思っています。
ただ、会社全体でAIに取り組んでいかないと生産性は上がりませんから、今は全社で活用を進めています。
関連記事
- 松尾豊東大教授が明かす 日本企業が「ChatGPTでDX」すべき理由
松尾豊東大教授が「生成AIの現状と活用可能性」「国内外の動きと日本のAI戦略」について講演した。 - 和製ChatGPTで「戦いに参入すべき」 松尾豊東大教授が鳴らす“警鐘”とは?
経営者層がいま、最も注目しているビジネストピックが「ChatGPT」などの生成AIだろう。日本ディープラーニング協会理事長で、東大院の松尾豊教授の登壇内容をレポート。ChatGPTをはじめとする生成AIを組織内でどのように活用していくべきなのか。ビジネスで活用する上で、どんな点に注意すべきかをお伝えする。 - 日立の責任者に聞く生成AIの“勢力予想図” 「来年、かなりの差がつく」
日立はどのように生成AIを利活用しようとしているのか。Generative AIセンターの吉田順センター長に話を聞いた。 - NTTデータの責任者が語る「生成AIの活用法」 他社にまねできない強みとは?
NTTデータで生成AIを扱うイノベーションセンタの古川洋センタ長が、具体的なビジネスにおけるユースケースや今後の可能性を語る。 - ChatGPT創業者が慶大生に明かした「ブレイクスルーの起こし方」
ChatGPT開発企業の米OpenAIのCEOが来日し、慶應義塾大学の学生達と対話した。いま世界に革命をもたらしているアルトマンCEOであっても、かつては昼まで寝て、あとはビデオゲームにいそしむ生活をしていた時期もあったという。そこから得た気付きが、ビジネスをする上での原動力にもなっていることとは? - 孫正義「SBGを世界で最もAIを活用するグループに」 AGIは10年以内に実現
ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長は10月4日、都内で開いた自社イベントに登壇し「SBGを世界で最もAIを活用するグループにしたい」と力説した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.