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「役に立っている実感」が人を変える 元自衛官の26歳SE、沖縄移住で見つけた“働く幸福”のかたち(2/2 ページ)

京都府出身で沖縄県在住の草川颯人さんは現在、沖縄本島内の「都市エリア」と「自然エリア」の両方で、“県内2拠点生活”を実践している。東京でのエンジニア経験もある草川さんは「田舎では人同士の関わり合いが直接分かる分、誰かの役に立てているという実感があって自己肯定感が爆上がりします」と笑顔を見せる。

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4年間の自衛官生活から学んだこと

 話はさかのぼる。草川さんは高校卒業後、自衛隊に入隊した。

 直接的なきっかけは大学受験に落ちたことだ。「周りが4年間大学に行くのなら、自分は4年間自衛隊に行こうと決めたんですよね。そっちの方が経歴として面白いですし、珍しい存在になれるんじゃないかと思って」

 高校を出たばかりの草川青年は、自衛隊で自分の無力さを知ると共に、謙虚な心を持つことができたという。「腕立て伏せなんか、最初のうちは10回ぐらいしかできないんですよ。でも先輩たちは何十回も普通にやりますからね。いろんな場面で『自分なんかまだまだだ』って思い知らされました」


現在は2拠点生活だが、いずれはやんばるの一拠点生活を目指している(本人提供)

 “4年間限定の自衛官”を心に決めた草川さん。入隊後から自衛隊以外のキャリアを描く時点で、かなり稀有(けう)な存在でもあったという。仕事が終わった後の宿舎内で、毎晩机に向かってプログラミングの勉強を独学で始めた。簡単なアプリを作ったり、関連する資格を取ったり、オンラインコミュニティに参加して学習者同士で助け合ったり。

 そんな中、コミュニティで知り合った一人から、こんな誘いを受ける。「会社立ち上げるんだけど、働かない?」

 東京でのエンジニア生活の始まりだった。システムエンジニアは転職を重ねて自ら給与や待遇を上げていくのが一般的だ。そういった活動の中で、沖縄への移住を決めた。

自分の役割が見える場所で働く

 「森の中で寝っ転がってみたら、すぐ横にいる草や木と自分の存在がイコールに思えてくるんですよ。同じ自然のサイクルにいる感覚です」

 草川さんが自然から学んだのは、いろいろなことが相互の関わり合いの中で成立しているということだ。落ち葉にも虫にも何にでもみんな役割がある。草川さんは声のトーンを一つ上げた。

 「人間も『自分には必要とされる役割がある』とか『世の中に貢献できている』という実感を持てることが大切だと思いますし、だからこそ幸せを感じられると思います。でも現代社会は複雑化されすぎていて、本当はみんな誰かの役に立っているのに、自分の役割を“単なる歯車や部品”だという認識しかできない人もいると思うんです。これがもしも大昔のマンモス狩りだったら、体力がある人は狩りに、手先が器用な人は武器作り、というようにそれぞれの役割が見えていて、働く上でハッピーだったと思います」


「人間も『自分には必要とされる役割がある』とか『世の中に貢献できている』という実感を持てることが大切だと思う」と話す草川さん(筆者撮影)

 人の数が少ない田舎暮らしは、人と人とがより直接的に関わる局面が多い。だからこそ「自分と誰かで与え合っている」ことを強く感じられるという。「田舎の人間関係の近さが苦手という理由で都会に住む人もいますが『いや、逆や』と思います。誰かと関わるからこそ幸せを実感できるはずです」

 そして自身の経験から言葉を紡ぐ。「だからね、エンジニアのようにPC画面に向き合って、人と顔を合わせることが少ない人ほど、田舎に住んで仕事をすべきだと思うんですよ」

 コロナ禍を機にリモートワークが一般化してもう5〜6年が過ぎた。場所が変われば幸せの質や在り方自体が変化するきっかけにもなりうる。自己肯定感が少なくて悶々としている時には、田舎の自然に囲まれた生活が、何か答えを提示してくれるのかもしれない。

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