「役に立っている実感」が人を変える 元自衛官の26歳SE、沖縄移住で見つけた“働く幸福”のかたち（1/2 ページ）

京都府出身で沖縄県在住の草川颯人さんは現在、沖縄本島内の「都市エリア」と「自然エリア」の両方で、“県内2拠点生活”を実践している。東京でのエンジニア経験もある草川さんは「田舎では人同士の関わり合いが直接分かる分、誰かの役に立てているという実感があって自己肯定感が爆上がりします」と笑顔を見せる。

[長濱良起，ITmedia]

　「僕がシステムエンジニアになった理由は、自然の中で暮らしたいからなんですよ」

　そう話すのは、京都府出身で沖縄県在住の草川颯人さん（26）。沖縄本島内の「都市エリア」と「自然エリア」の両方で、“県内2拠点生活”を実践している。

　平日の大部分は那覇市周辺を拠点として、エンジニアとしての知識を生かしたDX支援やシングルマザー向けの就労スキル支援を行う一方、車で2時間ほど離れた沖縄本島北部、亜熱帯のジャングルが広がる国頭村（くにがみそん）では、ネイチャーツアーガイドや農業経営支援を行う“二刀流”っぷりだ。

　東京でのエンジニア経験もある草川さんは「田舎では人同士の関わり合いが直接分かる分、誰かの役に立てているという実感があって自己肯定感が爆上がりします」と笑顔を見せる。こうしたライフスタイルの実現は、自身が自衛官時代にこっそりと積み重ねた、ある努力の賜物（たまもの）でもあった。

沖縄県内で都市の「那覇地区」と自然の「やんばる」の2拠点生活をしている草川颯人さん（筆者撮影）

著者プロフィール：長濱良起（ながはま よしき）

沖縄県在住のフリーランス記者。音楽・エンタメから政治経済まで幅広く取材。

琉球大学マスコミ学コース卒業後、沖縄県内各企業のスポンサードで2年間世界一周。その後、琉球新報に4年間在籍。

2018年、北京に語学留学。同年から個人事務所「XY STUDIO」代表。記者業の他にTVディレクターとしても活動。

著書に『沖縄人世界一周！絆をつなぐ旅！』（編集工房東洋企画）がある。

小さな集落で見つけた“人とのつながり”

　国頭村のとある集落。2021年に世界自然遺産に登録された「やんばるの森」の山あいにある。

　草川さんは楽しそうにこう話す。「地域の草刈りに参加すると、地元の方に本当に喜んでもらえるんですよ」。若い人が地域の一員として手を貸すだけで、思いのほか喜ばれる。都会のように顔の見えない関係ではなく、「誰かの役に立っている」と実感できる瞬間が多い。そんな人との距離の近さが、草川さんにとっては大きな魅力だ。

　こうした結び付きの中で、地域からの信頼を得ていった結果、草川さんは集落内の古民家を貸してもらって拠点にすることができた。沖縄原産のかんきつ類・シークヮーサーの耕作放棄地を復活させるプロジェクトに取り組んでいる他、同じ沖縄本島北部・名護市内の別の地域では約50万坪（東京ディスニーランド3倍以上）の面積がある牧場の敷地を活用したネイチャーツアーガイドに尽力している。

草川さんはシークヮーサーの耕作放棄地を復活させるプロジェクトに取り組んでいる（本人提供）

　余暇の過ごし方は、おそらく日本人の大部分とはこれまた違う。澄んだ川でコイを捕まえて寿司や沖縄そばにしてみたり、イノシシのジビエ肉で平打ちパスタのタリアテッレを作ってみたり。「イタリアンパセリは栽培していて、使いきれないほどあるのでかけ放題です」と、得意の料理とアウトドア生活を融合させた自分時間を過ごす。

“二刀流”の働き方で「好きな場所」と「仕事」を両立

　冒頭でも述べたように、草川さんがシステムエンジニアの道を選んだ理由は「自然の中で暮らしたいから」と明確だった。場所を選ばずに生活できて、なおかつ東京水準の高単価の仕事も狙えるからだ。

　草川さんは会社代表として、農村部でのネイチャーツアーガイドや農業経営支援を行っている一方で、那覇市周辺ではリモート出社の融通も利く会社員としての顔も持ち、経済的に難しい環境に置かれたシングルマザーの自立に向けた就労スキル支援業務を行っている。

　シングルマザー支援のみならず、ずっと人助けのことを考えてきた。「若い人が田舎に住んでいても働けるような環境を作りたいんですよ。働きながらも田舎の良い面を感じられるように。山の中とかでITやデジタルの最新の仕事をやっていたら面白くないですか？」。草川さんと同じ思いを共有する仲間は他にもおり、動画編集・マーケティングの経営者と、EC物販の経営者と3人で協力しながら地域を盛り上げる。

コイを捕まえて食べる。アウトドア生活が楽しめるのも田舎暮らしの魅力だ（本人提供）

　自然には幼少期から触れていた。しかも、割とどっぷりだ。祖父が自前でこしらえた山小屋を持っていて、土日は祖父と一緒に山で生活をするのが毎週の楽しみだった。電気も水道もない生活で、代わりにあるのは薪ストーブやソーラーパネル。「男の子の秘密基地の最高版」と草川さんが評する思い出を、今度は自分で実現しようと動き出した。

　都市の「那覇地区」と自然の「やんばる」の2拠点生活をしているものの、いずれはやんばるの一拠点生活を目指していきたいという草川さん。なんだか珍しい“過渡期の2拠点生活”の最中だ。