後継者不在が63% 中小企業が「事業を売る」決断を迫られる理由
東京商工リサーチの調査で、大企業の24%が「買収」を検討する一方、「売却」を検討する企業の多くは中小企業だった。背景には後継者不在や人手不足があり、仲介業者からのアプローチは8割を超える。急成長するM&A市場に課題も浮かぶ。
東京商工リサーチが企業を対象に2025年の「M&A」に関する調査を実施したところ、大企業の24.1%が他社の買収を検討していることが分かった。一方で「自社の売却を検討している」と答えたのは大企業では1社のみで、267社中266社が中小企業(5.2%)だった。M&A市場の活発化に伴い、仲介業者を利用する企業も増えている。
「売却も買収も検討していない」と回答した企業は76.0%(5498社中4180社)で最多だったが、「他社の買収を検討」は14.4%(795社)、「自社の売却を検討」は4.8%(267社)だった。
規模別に見ると、「他社の買収を検討している」企業は、大企業が24.1%(390社中94社)に対し、中小企業は13.7%(5108社中701社)だった。一方、「自社の売却を検討」しているのは大企業1社に対し、残り266社はすべて中小企業であり、多数を占めた。
産業別では「農林水産・鉱業」が最多
「売却を検討している」と回答した企業を産業別に見ると、最も多かったのは「農・林・漁・鉱業」で10.4%(48社中5社)。次いで「金融・保険業」が9.0%(55社中5社)、「情報通信業」が8.4%(333社中28社)だった。
一方、「買収を検討」している企業では、「運輸業」が21.5%(232社中50社)で最多だった。「建設業」(21.2%、789社中168社)、「卸売業」(20.5%、992社中204社)が続いた。人手不足や「2024年問題」、後継者不足などが影響しているとみられる。
売却を検討する主な理由は「後継者不在」
「自社の売却を検討している」「自社の事業部門の売却を検討している」と回答した企業に理由を聞いたところ、最も多かったのは「経営や事業部門の後継者がいない」で63.7%(342社中218社)だった。ほかに「不採算が続いている」(23.3%、80社)、「株主や経営者の個人的な理由」(20.4%、70社)などが挙げられた。深刻な人手不足が事業継続の妨げとなっている状況が浮かぶ。
仲介業者からのアプローチは8割超
M&A仲介業者(支援業者)からアプローチを受けたことが「ある」と回答した企業は82.6%(6347社中5246社)に上った。「ない」は17.3%(1101社)にとどまった。
規模別では、大企業が77.7%(453社中352社)、中小企業が83.0%(5894社中4894社)で、中小企業の方が5.3ポイント高かった。仲介業者は中小企業に対し、主に「売却」を目的とした営業アプローチを行っている実態がうかがえる。
拡大するM&A市場に課題も
東京商工リサーチは、「M&Aは事業基盤や従業員の雇用が確保される場合、地域経済の活性化につながる」とする一方で、「仲介業者の中には、売り手と買い手の双方から手数料を受け取る利益相反問題や、不透明な手数料、買収後の経営者保証の解除、資金流出への対応など、明示すべき課題も多い」と指摘している。
中小企業庁は、M&Aのトラブル防止と市場の健全化を促すため、2026年度にも「M&Aアドバイザー資格制度」を創設する予定だ。
同社は「急激に拡大するマーケットに多くの業者が参入し、一部の『悪意ある買い手』が社会問題化している。こうした業者の排除が、M&A市場の健全化と持続的成長には不可欠だ」と分析している。
調査は企業を対象にインターネットで実施。期間は2025年10月1〜8日、有効回答は6347社だった。資本金1億円以上を「大企業」、1億円未満(個人企業を含む)を「中小企業」と定義している。
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