「コレ、総務の仕事?」と思っても 社内対立の“仲裁役”は買ってでもやるべき理由:「総務」から会社を変える(3/3 ページ)
「総務は特定の事業部門に属さないから、第三者的に話を聞いて、落としどころを見つけてくれるだろうと期待されているんです」。この言葉に、深く共感する総務パーソンは少なくないはずだ。今回は、なぜ総務にこうした「仲介役」が回ってくるのか、この役割をどう戦略的に全うすべきかについて考察する。
仲介役を務める際の「3つのポイント」
では、適切に判断し、組織のプラスにつなげる仲介役であるために、総務は何を意識すべきか。次の3点がポイントだ。
1. 「傾聴」と「事実確認」の徹底
まず大前提として、双方の言い分をさえぎらず、最後まで「聴き切る」こと。このとき、相手の「主張(何が欲しいか)」だけでなく、その裏にある「背景・感情(なぜそう思うか)」までを深く傾聴する。
同時に、「事実」と「解釈・感情」を冷静に切り分けることも重要だ。「Aさんが会議室を横取りした(解釈)」のではなく、「AさんとBさんの予約が重なっていた(事実)」というように、客観的な事実を確定させることから始める。
2. 「中立」ではなく「公正」な立場を貫く
「中立」とは、どちらにも肩入れしないこと。しかし、時には会社の規程やコンプライアンス、あるいは「人としてどうあるべきか」という倫理観に照らして、明らかに逸脱する言動があると中立を貫くのが難しい局面もある。
その場合は、「どちらにも良い顔をする」のではなく、「会社としてどうあるべきか」という「公正」(Fairness)な視点を持つことが重要だ。特定の個人ではなく、「会社のルール」や「あるべき姿」を判断の拠りどころとするのである。
3. 「白黒」ではなく「落としどころ」を探る
仲介役の仕事は、裁判官のように白黒をつけることではない。特に部門間の対立において、「どちらかが100%正しく、どちらかが100%間違っている」ということは稀である。さらに、白黒つけることにより、総務に対して感情的なしこりを生み出してしまうケースもある。ファンづくりが重要な総務としては致命傷となる。
目指すべきは、双方が痛み分けをしてでも前に進める「落としどころ」、すなわちWin-WinまたはWin-Loseの最小化だ。「お互いの共通の目的は何か?」をあらためて確認した上で「そのために、今できる最善策は何か?」と、視点を未来に向けさせるファシリテーションが求められる。
「調整」を総務の「価値」に変えよう
総務の皆さんが日々行っている仲介・調整は、決して雑務ではない。それは、組織という“体”の血流を良くし、詰まりを取り除く、高度な専門性を持った仕事だ。「また面倒な話が持ち込まれた」と捉えるか、「組織の課題を発見するチャンスだ」と捉えるか。その意識の違いが、総務部門の価値を大きく左右する。
日々の業務の中で、社内の人々を「つなぎ」、問題を「ときほぐし」、組織を「前に進める」。その役割を全うすることで、総務は単なるサポート部門を超え、組織の持続的成長に不可欠な「戦略的パートナー」としての地位を確立できるのだ。
著者プロフィール・豊田健一(とよだけんいち)
株式会社月刊総務 代表取締役社長/戦略総務研究所 所長/(一社)FOSC 代表理事/(一社)IT顧問化協会 専務理事/(一社)日本オムニチャネル協会 フェロー
早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)FOSC代表理事、(一社)IT顧問化協会専務理事、(一社)日本オムニチャネル協会フェローとして、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。
著書に、『リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター、以下同)、『マンガでやさしくわかる総務の仕事』、『経営を強くする戦略総務』
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