海外進出の成否を分ける“最後の関門” 外注先の「物流会社選定」と「契約の実務」を総まとめ:仙石惠一の物流改革論
前回は仕様書の作成や説明会など、いよいよ物流会社の選定プロセスに入る段階を見てきた。今回は、仕様書や説明会で提示した条件に対して各社が提出する“回答書”をどう評価するか、その結果を踏まえて最終候補を絞り込み、契約締結へ進むまでの流れを解説する。
連載:仙石惠一の物流改革論
物流業界における「2024年問題」が顕在化している。この問題を克服するためには物流業の生産性向上以外の道はない。ロジスティクス・コンサルタントの仙石惠一が、運送業はもちろん、間接的に物流に携わる読者に向けて基本からノウハウを解説する。
企業が海外進出において、物流業務を成功させるためのポイントは何か――。多くの会社が物流業務をアウトソース(外注化)する中で、本連載ではこれまで、アウトソース先の物流会社を正しく選定するためのステップを見てきた。
選定ステップ1:RFI(Request for Information)の実施(選定候補となる会社への情報提供依頼)
選定ステップ2:候補会社訪問の実施
選定ステップ3:候補会社評価表の作成
選定ステップ4:仕様書の作成
選定ステップ5:仕様説明会兼入札説明会の実施
ここまでは、前回・前々回の記事で紹介したのでぜひ確認してほしい。
前回は仕様書の作成や説明会など、いよいよ物流会社の選定プロセスに入る段階を見てきた。今回は、仕様書や説明会で提示した条件に対して各社が提出する“回答書”をどう評価するか、その結果を踏まえて最終候補を絞り込み、契約締結へ進むまでの流れを解説する。
選定ステップ6:回答書の評価と選定会社決定
各候補会社から受領した回答書に基づき結果を評価していこう。
この際に「価格評価」と「技術評価」の両面から評価することが望ましい。ともすると「最安値」の会社を選定したくなるが、価格だけの評価は危険である。なぜなら最初の取引ではまず仕事を受注することが先決であり、実際運用はその後考えるという会社が多いからである。
この時の提示価格は他社に比べて非常に安くなっているが、これはいわゆる「ハネムーン価格」と言われるものである。極端に安い価格を出してきている物流会社は選定から外すといったポリシーを持っている会社もあるくらいである。
「価格評価」と「技術評価」はそれぞれウエイトをあらかじめ決めておく。例えば「価格評価」を60点、「技術評価」を40点というように、両方を合計すると100点になるようにしておくとよいだろう。
できれば「価格評価」を実施する人と「技術評価」を実施する人は分けることが望ましい。公平な評価のためにも複数の人による評価を心がけよう。「価格評価」は自社がベンチマークとしている価格をクリアしているか、あるいはそれにどれだけ近い価格になっているかを評価する。「技術評価」は自社の提示した仕様を満たしているか、自社にとって有益な提案があるかなどを評価する。こういった基準を自社なりに決めておくとよい。
ここで「技術評価」における留意点を挙げておこう。
海外での物流は日本で考えているほど容易なものではないことが多い。その例として輸送距離が比べ物にならないほど長かったり、道路事情が劣悪だったりする点が挙げられる。また日本ではまずありえない輸送貨物の窃盗が多発したりする点、時間に対してルーズな点など日本との違いは大きい。
つまりこのような想定される心配ごとを「技術評価」の中に織り込んでおくことが望ましい。その例として「今どこを走っているのかが分かる」とか「貨物の品質保証体制が整備されている」といった評価項目が挙げられるだろう。
選定ステップ7:契約の締結
物流会社選定ステップの最後が、契約書の締結である。
ステップ6で最終的に選定された会社には選定通知を、残念ながら選定に至らなかった会社にはその旨を記した書面を発行しよう。選定から漏れた会社から理由を聞かれた場合は差し支えない範囲で説明してあげる方がよいだろう。将来的に付き合いが出てくる可能性もあるだろう。
海外である点を考慮すると契約書は必ず締結しておきたい。国内では物流会社との間で契約書を取り交わさずに仕事を委託していくケースがあるが、これはあまり感心しない。なぜなら何かあった時の責任の所在があいまいになってしまう可能性があるからである。
皆さんもよくご存じの通り、海外は契約社会である。契約書に書いてないことはやらないことが当たり前なのだ。そこでこの契約書の作成は入念に行いたい。できれば自社で契約している法律事務所があればそこに作成してもらうことを考えたい。
契約書にはどのタイミングで発注するのか、発注手段は電子データなのかFAXなのか、請負代金の支払方法はどうするのか、万一貨物に損傷があった場合の補償をどうするのか、など実際運用を行うに当たり、気になる点を網羅しておく必要がある。もし契約書に書いていない事項でもめごとが発生すると厄介なことになるので、時間をかけてじっくりと内容を吟味しよう。
契約書には実際運用に関わることに加え、お互いの改善活動についても記しておこう。輸送であれ構内物流であれ、あるいは梱包作業や倉庫管理であれ常に改善を行っていく必要がある。そこで物流会社と自社とで共同改善を行っていくことを合意しておきたい。自社の物流効率化に関することは当然として、物流会社にとってもメリットになるような改善を心がけたいものである。
この改善を確実に実行していくためにも「パフォーマンスレビュー・ミーティング」という両社による改善評価会を設定することをお勧めしたい。このミーティングは年に2回ほど両社のトップマネジメントが出席して行われる。
契約時に合意した改善ができているか、遅れているとすればいつまでに挽回するのか、今抱えている困りごとは何かなどを論議し、改善を推進していく組織である。物流は自社だけではやりきれない性質の仕事であるため、このような物流会社とのコミュニケーションをとる場を設けておくことは大変効果的であるといえるだろう。
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