【徹底解説】「103万円の壁」は本当に消えたのか? 税制・社会保険・手当の“複雑すぎる実情”:働き方の見取り図(2/3 ページ)
年収の壁という言葉自体は明瞭で世の中にも浸透しているものの、その実態や課題は雲をつかむかのようにどこか不明瞭。年収の壁の現在地はどうなっているのか、職場や働き手はどのように対処していけばよいのか考える。
家族手当や配偶者手当……「103万円の壁」はいまだ健在
では、実質的に103万円は年収の壁にはならないのかというと、そうでもありません。103万円が壁としてそびえ続けている制度が、他にあります。配偶者が勤める会社から支給される家族手当や配偶者手当などと呼ばれる制度です。
人事院が公表する令和5年職種別民間給与実態調査によると、家族手当を支給する会社が設定している配偶者の収入上限額として最も多いのが、103万円となっています。
支給金額は月数千円から数万円と会社によって幅がありますが、103万円を超えると手当が支給されなくなります。超える前より家計収入が減るのを避けようとすれば働き控えにつながるため、年収の壁となります。上限引き上げなど各社の解消策が必要です。
また、103万円より低い100万円が目安となっていた住民税も、年収の壁の一つとして挙げられることがあります。しかし、こちらは所得税の下限額変更に伴い非課税ラインが110万円へと引き上げられ、103万円より高くなりました。
所得税の非課税ラインを年収の壁と呼ぶ風潮があったとしても、今年からは所得税も、さらに住民税も103万円を超えました。少なくともその分は、103万円を年収の壁の金額として認識する人が減ったはずです。
ところが、筆者が研究顧問を務めるしゅふJOB総研で、9月に仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層に調査したところ、収入上限を定めている人で最も多かった金額は年収103万円でした。過去の調査と比較して、いまのところ減った印象を受けません。
年収の壁として103万円を認識する項目は配偶者の家族手当くらいになったはずですが、他にも事情があるのかもしれません。要因として考えられるのは、一つが「年収の壁は103万円」と長い間刷り込まれてきたこと。もう一つは「ざっくり103万円の壁」が設定されている可能性です。
詳細を確認すれば103万円より収入上限額を引き上げられるかもしれないものの、制度が複雑で理解するのには大変な労力がかかります。そんな“制度理解の壁”に挑むよりも、ひとまず「年収の壁として最も低そうな103万円くらいに抑えておけば大丈夫だろう」とザックリ考えてしまいがちです。
いまは「税金」と「社会保険」と会社が支給する「手当」で、ルールも目安となる収入上限もバラバラになっています。これらが一本化されるなど制度がシンプルにならない限り、「ざっくり103万円の壁」は、多くの人の前でそびえ続けることになりかねません。
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