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【徹底解説】「103万円の壁」は本当に消えたのか? 税制・社会保険・手当の“複雑すぎる実情”働き方の見取り図(1/3 ページ)

年収の壁という言葉自体は明瞭で世の中にも浸透しているものの、その実態や課題は雲をつかむかのようにどこか不明瞭。年収の壁の現在地はどうなっているのか、職場や働き手はどのように対処していけばよいのか考える。

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 「働き控えの原因」「働き損が起きる」――。

 長年にわたり問題視され続けてきた「年収の壁」。今年(2025年)は制度改正がありましたが、国会では「年収の壁」をめぐる議論が再び始まっています。報道などで目にするのは、所得税のことです。

 昨年までは、年収が103万円を超えると所得税がかかりました。それを根拠に103万円こそ年収の壁だと見なされてきた感がありますが、今年から160万円へと引き上げられています。これで、年収の壁問題は一定の解決を見たようにも思われます。

 ところが国会での議論は続き、「社会保険の壁の方が問題だ」という指摘もあります。さらには、「最低賃金の引き上げが働き控えを招いている」といった声も聞かれます。

 年収の壁という言葉自体は明瞭で世の中にも浸透しているものの、その実態や課題は雲をつかむかのようにどこか不明瞭です。年収の壁の現在地はどうなっているのか、職場や働き手はどのように対処していけばよいのかについて考えてみたいと思います。


年収の壁の現在地とは。職場や働き手はどのように対処していけばよいのか。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫

愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。

所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。

NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。


「年収の壁」103万→160万円へ メリットあるが違和感も……

 所得税の非課税ライン引き上げは、国民民主党が政府に求めたことで注目を集めました。それが実る形で103万円から160万円に引き上げられ、収入が160万円まで増えたとしても今年からは所得税がかからなくなっています。

 その分の手取り額が増えるので、家計収入にとっては明確にプラスです。食料品や生活必需品の値上げが家計をジリジリ圧迫し続けてきている状況下では、大いに歓迎される施策だと思います。

 さらに国民民主党は、過去からの最低賃金上昇率を踏まえて算出される178万円まで非課税ラインを引き上げることを政府に強く求めています。これが実現すれば、より手取りが増えて家計は助かるはずです。

 ただ、所得税の非課税ラインが103万円から160万円、さらには178万円まで引き上げられたとしても、手取りが増えるのは主婦層など収入上限を意識して働く人に限定された話ではありません。上限なく働く人の手取りも増えます。所得税の非課税ライン引き上げ自体はメリットのある施策だと思いますが、一方で、それが年収の壁対策として扱われることには違和感を覚えます。

 また所得税の場合、基本的に働き損は発生しません。働き損とは、定められた収入上限額を超えると一定の金額が控除され、超える直前より手取りが減ってしまうことを指します。しかし、所得税は収入上限を超えた分の金額にのみ税率をかけて徴収する仕組みなので、超える直前より手取りが減少するという逆転現象は起きないのです。

 若年層において親を含めた世帯の手取り額が減るといった一部のケースを除き、所得税の非課税ラインを年収の壁と呼ぶ風潮には疑問を禁じえません。103万円から160万円に引き上げられたのは下限額なので、壁というより年収の“底”として意識されているものです。

 いくらキャッチーだからといっても、所得税の下限に対して年収の壁という言葉を使い続けるのは誤用とも言え、年収の壁の実像を分かりにくくさせる原因の一つになっていると感じます。

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