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AI導入のカギは「行動変容」 ソニーグループが実践した、“現場が使いたくなる仕組み”とは?AI時代の「企業変革」最前線(2/5 ページ)

ソニーグループは2023年から全社員の生成AI活用を推進し、わずか2年で5.7万人が日常業務で使う体制を整えた。同社では、日々15万件の推論が実行されている。

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スペシャリストの横断組織を運営

中出: 大場さんがご所属のAIアクセラレーション部門というのは、どのような組織構造になっているのでしょうか?

大場: AIの推進は、最新技術の展開や啓発だけではなく、AI活用を適切に加速するためのレギュレーションの整備も不可欠です。さらには、AI活用推進を実行する現場組織の巻き込みも大変重要です。そのため、技術、ガバナンス、改革実行の3つの観点から、必要な能力を整理し関連部門から人材を集めた組織になっています。

 いかに最新の技術、最新のルールに対応してアジャイルに(柔軟かつスピーディに)AI活用を加速できるかをコンセプトにしています。全ての技術部門、ガバナンス機能部門から適材適所適時にアサインできる、兼務配属を主体としたフレキシブルな組織構造です。

 例えばDX部門からデータサイエンティスト、R&D部門からAIエンジニアやリサーチャー、IT部門からDevOpsスペシャリスト、そしてAI活用を適切に加速させるために法務部門やセキュリティ部門などからも担当をアサインしています。さらには、実際にAI改革を進める現場組織にも組織に参画してもらい、一体となってAI活用を加速する体制を構築しています。

 現在は、最優先領域として本社機能部門と密に連携。Change Leaderと呼ばれるAI変革をけん引するリーダーを選出し、兼務でAIアクセラレーション部門に所属してもらっています。

 Change Leaderに参加してもらっているのは、組織横断的コミュニケーションや、情報共有を通じてAI変革の新たな可能性を探索するというのも一つの目的です。技術のみならずビジネス知識も含めた多様な人材が、それぞれの現場を持ちながら専門性を持ち込み合い、より良いアイデアを生み出す。AIを軸に多様な人材がつながり、得た知見をそれぞれの職場に持ち帰って拡散してもらう、というのも大きな期待値です。

中出: まさに“民主化”の仕組みそのものですね。

大場: そうですね。AIを軸に人がつながり、多くの現場の課題や期待値に対応し、そこから得たノウハウや構築したソリューションを展開することでAI Transformationをスケールさせる。Enterprise LLMも、最初は私を含めた2人のエンジニアからスタートし、多くのことに挑戦する中で今の形に成長してきた組織です。

sony
ソニーグループ AIアクセラレーション部門 責任者・大場正博氏(提供:テックタッチ)

中出: 兼務と本業とのバランスはどのように取られているのでしょうか?

大場: その時々のニーズに応じて、各関連部門と連携しながらアサインをかけています。

 兼務と本業のバランスはこのニーズと個々人のキャリアプランを考慮して決定しています。兼務を中心とした組織構造にしているのは、優秀な人材の流動性を高める狙いもありますが、AI人材の数をスケールさせる狙いもあります。

 AIは大きなビジネスインパクトを持ちますが、あくまで手段です。技術進化の速さと同じくらい急速に一般化も進んでおり、PC、クラウド、SaaSなどと同じように、どの領域においても当たり前になる技術と捉えています。この”当たり前”になる速度を高めることはビジネス競争力に直結すると考えており、実践を伴ったAI人材の育成は大変重要です。

 AIアクセラレーション部門には多くの現場のAIニーズやチャレンジが集まります。この場を利用して実践で専門性を発揮し成長してもらい、所属元に経験や新しい課題を還元してもらう。これもこの部門の役割であり、安心してチャレンジしてもらうための兼務でもあります。

中出: 各部署からメンバーをアサインする際、“エース”が欲しくなると思います。でも、業務部門からは「エースがいなくなると困る」と言われて、人選に困ることもあると思うのですが……。

大場: 私たちの企業文化として、”自分のキャリアは自分でつくる”という考えがベースにあり、社員個人の挑戦を応援してくれる会社ではあると思います。

 それに加えて、経営からも全本社部門に対して経営イシューとしてAIに真剣に向き合う明確な方向性が示されています。私自身も、本社部門のシニアマネジメント層と1on1会議を通じて直接対話し、お互いの理解を深めました。その結果、それぞれの部門から今後5年、10年とソニーを引っ張る人材をアサインすることができています。

 AIの専門性を有した人材の配置については、関連組織との調整や人材配備の責任はもちろん私が担います。しかし、個々の部門の組織戦略や個人のキャリアプランも考慮する必要があり、実際には多くの解決すべきチャレンジがあります。

 私たちの目指す組織構造を実現するために、AIアクセラレーション部門の副部門長には人事部門から人材をアサインしてもらいました。これは組織戦略の観点だけではなく、今後AIエージェントと社員が共に働く世界になることが想定されるので、人事戦略とAIエージェント戦略の連動や、レギュレーション設計など、人事部門との連携は不可欠だと考えています。

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