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公務員として働く幸せとは? 那覇市のエースDX人材、幼少期の苦労を糧に切り拓いた“今”(1/2 ページ)

民間企業に比べて、その導入プロセスの多さなどから、一般的に業務でのAI活用が進みにくい行政組織。そんな中で、沖縄県の那覇市役所で市民生活安全課に所属する宮城駿雅さん(32)は、少し異彩を放つ存在だ。

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 民間企業に比べて、導入プロセスの多さなどから業務でのAI活用が進みにくい行政組織。そんな中で、沖縄県の那覇市役所で市民生活安全課に所属する宮城駿雅さん(32)は、少し異彩を放つ存在だ。

 ChatGPTなどのAIサービスを公開当初から使い込み、蓄積した知識を武器に、職員向けのデジタル誌「DX推進ニュース」の発行や、職員有志に向けたAI活用セミナーの開催、さらにはDXツールの構築まで手掛け、市役所全体のAI活用とDX推進を底上げしている。

 「市職員の業務効率が上がれば、市民サービスの向上につながる」。そう語る宮城さんの思いの根底には、「市民にさまざまなサービスを“無料で還元できる”」という行政職員としての喜びがあるという。幼少期の一時期、生活の場所さえままならないことすらあった経験が、まだ見ぬ市民への思いと仕事への原動力になっているという。


沖縄県の那覇市役所で市民生活安全課に所属する宮城駿雅さん(筆者撮影)

著者プロフィール:長濱良起(ながはま よしき)

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沖縄県在住のフリーランス記者。音楽・エンタメから政治経済まで幅広く取材。

琉球大学マスコミ学コース卒業後、沖縄県内各企業のスポンサードで2年間世界一周。その後、琉球新報に4年間在籍。

2018年、北京に語学留学。同年から個人事務所「XY STUDIO」代表。記者業の他にTVディレクターとしても活動。

著書に『沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!』(編集工房東洋企画)がある。


遅くまで働く同僚の姿 「AIを使わない手はない」

 「インターネットやスマートフォンの出現に匹敵するぐらいの衝撃を受けました」

 宮城さんは、AIツールが登場した当時の気持ちをこう振り返る。そこから、AI活用に没頭してきた。期日に追われ、遅くまで仕事をする同僚の姿に「使わない選択肢はない」と、地道な“啓蒙活動”を続けていた。

 「職員一人一人は、私生活でAIやITを活用しているはずなんですが、業務になるとなかなか使えなくなるんですよね」

 行政でAI活用が進まない理由はいくつかある。税金をもとに財源を確保するという仕組み上、新たなAIツールの導入は、市議会の承認を得た上で、次年度予算で執行される。このため、思い立ったその日から、半年から1年が経たなければ実現しないのだ。このスパンでは日進月歩の技術革新に取り残されてしまう。

 また、前例のないことに挑戦して「失敗した」という評価になると、市民や監査、議会からの批判につながりやすいことも、トライアンドエラーが進みにくい一因となる。

 宮城さんが思い描くのは、「安定しているから」ではなく「かっこいい仕事をしているから」という理由で公務員を目指す若者が増える未来だ。「みんなAIを使いこなして、県外の自治体から視察が来た時にうらやましく思ってもらえるような那覇市がいいですよね」と、率先してチャレンジを続ける。

 公務員になる前は、民間でのフィットネス施設運営も経験した宮城さん。「民間の経験を生かす場面があるとしたら、『躊躇(ちゅうちょ)せずにスタートダッシュを切る』ことを率先していくことかなと思います」

 宮城さんが市役所で働きだした2023年当時は、庁内で業務にAIを活用していなかった。宮城さんは、終業後に有志向けのAI活用セミナーを開催するなど、庁内のAI理解促進に奔走した。

 前述の「DX推進ニュース」は、課内に向けて2024年11月から基本的に毎月発行し続けている。AIの活用事例やプロンプトの小技集などを、分かりやすく示す。「昼ご飯を食べる時間があるくらいなら、これを作っている」というほどの没頭具合だ。


「DX推進ニュース」は2024年11月から基本的に毎月発行し続けている(筆者撮影)

 もちろん、職員が個人レベルでAIを使いこなして業務効率化やサービス向上に直接つなげる狙いもあるが、宮城さんには“裏テーマ”がある。それは、市職員全体としてAI活用は重要だという認識を育んでいこうというものだ。

DXツールを自ら構築

 宮城さんが所属する市民生活安全課は、窓口業務など市民と直接の接点を持つシーンが多い。外国人対応の局面では、英語の通訳士は常駐しているものの、その他の言語対応では、きちんとした案内がスピーディーにできないという課題に直面していた。

 そこで宮城さんが提案したのが、AIによる高精度の多言語翻訳が、即座に文字で映し出される字幕表示システムの導入だった。これも普段から、課内でAI活用の重要性を共有できていたからこそ、決裁がスムーズに進み、導入に向けて準備が進んだ好例と言える。


宮城さんが導入を提案した字幕表示システム(筆者撮影)

 それだけではなく、予算をかけずにすぐに実行できる“市役所DX革命”の一つとして、ツールを自作した例もあった。

 市民向けの弁護士相談の予約管理業務は、従来は大きな紙ファイルに手書きで記録する方法だった。ファイルは一つしかないため、誰かが予約情報を記入している間は、他の職員が内容を確認できず、業務が滞る場面もあった。

 これまでにも改善の声があったが、即時性と汎用性で「結局、紙がいい」といった声が上がり、紙のままの状態が続いていた。

 そこで宮城さんは、市のDX推進室と連携し、Microsoft Accessを活用して庁舎内で予約システムを構築。2025年4月から業務に取り入れることができた。これにより、職員が各自のPCから予約状況や市民情報などを即座に把握できるようになった。

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