「外販」も視野に ファイターズ“大航海”を支える「デジタル戦略」の裏側(2/4 ページ)
ファイターズの新球場「エスコン」には、多くの試合がある日もない日も多くの来場者が訪れる。その背景には、顧客IDを活用した1to1コミュニケーション戦略がある。その取り組みは、野球業界にとどまらない、スポーツ業界のスポンサービジネスに拡張をもたらす可能性を秘めている。
「何度も来場」する人にはどんな傾向がある? ジャーニー戦略の全容
同社は2025年、マーケティング部門内に「顧客マーケティンググループ」を新設し、顧客との長期的な関係構築に取り組む組織体制を強化した。
同部の田邊朋哉部長は「もともとマーケティング部はあったものの、新規獲得と顧客育成を担う組織が分かれて存在していました」と語る。メルマガ配信やSNS投稿などが部門間で分断され、顧客に対して一貫性を持ってコミュニケーションをすることが難しかった。
組織改編により、マーケティング部の中で新規、既存それぞれのコミュニケーションを担当するグループが合体。これにより、メッセージにある程度の一貫性を持たせることができるようになったという。
【お詫びと訂正:2025年12月02日午前6時の初出で、「顧客マーケティンググループ」を新設した時期を「2024年」としておりましたが正しくは「2025年」でした。2025年12月4日午後6時、該当箇所を修正いたしました。お詫びして訂正いたします。】
同社が目指すのは、年に複数回エスコンに訪れる人を増やすこと。「年に2〜3回の来場回数を、年4回、年10回と増やしていきたいんです」(田邊氏)
年に数十回、毎日観戦する顧客は、積極的にコミュニケーションを取らなくても、継続して来場してくれる可能性が高い。「顧客の定着」という観点では、年間を通じてコンスタントに来場してもらうことが重要だと話す。“年間を通じて観戦計画を立てる”ような顧客を増やしたい。
田中氏は「定着の定義にもよるが」としつつ、以下のように語る。
「年間10回来場している方は、過去にどういう行動をとっているのか。定着の“鍵”となるのはどのような要素なのか──定量データを活用しながら分析しています」
この“鍵”となるインサイトが分かれば、リピーター増も見込める。現状同社が可能性を感じているのが、アプリを起点としたカスタマージャーニー設計だ。
チケット購入をきっかけにアプリの会員登録をしてもらう。年に3〜4回来場する顧客には、年会費3900円のファンクラブへの入会を促す。さらにロイヤリティが高まった顧客に対しては、年間数十回の来場からシーズンシート(年間指定席)を購入してもらい、来場回数を積み上げていく──というステータスの変化を意識し、顧客育成を強化している。
現在はFビレッジ、ファイターズそれぞれでLINE公式アカウントを開設。アプリとの連携も強化しており、実際新規ID登録のうち約4割がLINEログインを利用している。
アプリへの登録はハードル高いと感じる顧客にとって、日常的に利用しているLINEは登録のハードルが下がる傾向があるという。ライトなタッチポイントとしてLINEが機能し、会員登録の間口が広がった。
LINEと連携することで、メールを開いていない顧客にアプリのプッシュ通知やLINEを送るなど、コミュニケーションのバリエーションも広がった。
「例えば『友達に連れられてきた』といったライトな顧客層のタッチポイントとして、LINEを活用していきたいです。その後、さまざまな案内を送り、アプリへの登録、ファンクラブへの入会と、ゆっくりとカスタマージャーニーを描いていけるといいなと考えています」(田中氏)
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