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若者向け『7つの習慣』著者に聞く AI時代に必要な日本企業のリーダーシップ教育

個人と組織が成果を出すための原則を示した自己啓発書として、日本のビジネスパーソンにも長く読み継がれてきたベストセラー『7つの習慣』。著者スティーブン・R・コヴィー氏の息子で、米国の人材コンサル企業「フランクリン・コヴィー」のエデュケーション部門を率いるショーン・コヴィー氏に、日本企業の課題とAI時代のリーダーシップについて聞いた。

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 1989年に発売し全世界で5000万部超、日本国内では1996年に翻訳され270万部を突破したベストセラー『7つの習慣』。個人と組織が成果を出すための原則を示した自己啓発書として、日本のビジネスパーソンにも長く読み継がれてきた。

 そこでは「主体的である」「終わりを思い描くことから始める」といった、一人一人が自らの行動を選択し、信頼関係を築きながら成果を上げていくための行動指針を提示している。同時に、変化の激しい環境の中で、リーダーシップを体現できる人材が不足している現状を浮き彫りにしてきた。

 本の出版から35年以上が経ち、AIの進化によって業務の一部を自動化する一方、人間ならではの判断や信頼を生み出す力の在り方は変化している。これからの時代に必要なリーダーシップとはどのようなものなのか。『7つの習慣』の著者スティーブン・R・コヴィー氏の息子で、米国の人材コンサル企業「フランクリン・コヴィー」のエデュケーション部門を率いるショーン・コヴィー氏に、日本企業の課題とAI時代のリーダーシップについて聞いた。


ショーン・コヴィー 経営者、作家、講演家。フランクリン・コヴィー・エデュケーション部門の最高責任者を務め、原則中心のリーダーシップ・アプローチを通じて世界中の教育変革に尽力している。フランクリン・コヴィーの学校改革プロセス「リーダー・イン・ミー」を統括しており、現在、世界70カ国、7000校以上で展開されている。ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー作家でもあり、ウォール・ストリート・ジャーナル紙のビジネス・ベストセラー1位に輝いた『実行の4つの規律』など著書多数。『7つの習慣ティーンズ』は20の言語に翻訳され、世界中で800万部以上を売り上げている

AI時代にこそ問われる 日本企業のリーダーシップ

――ショーン・コヴィーさんは、『7つの習慣』を若者向けに翻案した『7つの習慣 ティーンズ』を書いています。今の日本企業のリーダーシップをどのように見ていますか。

 これは日本に限ったことではありませんが、やはり今のAI時代においてはリーダーシップが非常に重要だと思っています。日本の強みは、安定性や先端テクノロジーへの感度といった面が挙げられると思います。また、欧米諸国との関係性が良好であること、世界的に有名で、多くの人から高く評価されている会社が存在していることも大きな強みだと感じています。素晴らしいリーダーシップを発揮している企業も見受けられますが、AIが強力なツールであるからこそ、そこで人間ならではの特別な力をどう生かすかが重要になってくると考えています。

 動物やAIにはない良心、想像力、選択する能力といった人間だけが持つ力によって、リーダーシップはさらに変化していくと思います。加えて自己認知能力も人間固有のものだと思いますし、それを基に人とつながるコミュニケーション、共感力、エンパシーも重要です。こうした能力を全て含めた上でのリーダーシップを、日本のみならず世界中でより強めていく必要があると思っています。

 もう少し具体的に言うと、私たちは社会人になってからだけではなく、学生のうちにリーダーシップを学ぶことが重要だと考えています。ですので、大学生も含めて指導やプログラムを展開し、リーダーシップ教育を実践しています。学校では読み書きや数学だけでなく、やはりリーダーシップも教えるべきですし、学生自身も早いうちからその素養を身につけていく必要があると思っています。

リーダーシップは生まれ持った素質ではない

――日本企業でも、リーダーの育成は課題となっており、リーダーシップを持つ人材が不足している現状があります。企業はどのように対策すればよいでしょうか。

 まず重要なのは、企業としての考え方の変革、つまりパラダイムシフトを起こす必要があると考えています。日本では「リーダーシップを取れる人が少ない」とよく言われますが、これは「リーダーシップは生まれ持った素質」だという考え方に根ざしている部分が大きいと思います。

 私は誰もがリーダーになれるし、リーダーシップは後天的に培い、積み上げていくことができると信じています。なので、まず「誰でもリーダーになれる」という信念を持つことが出発点です。企業や経営陣にも、そうしたパラダイムシフトが必須だと思います。

 リーダーシップとは肩書きに付随するものではなく、個人の選択と実践に基づくものです。マネジャーやディレクター、部長といった役職に関係なく、誰もがリーダーシップを発揮できることがとても大切です。実際の現場でも、上司よりも倫理観が高く、周囲から信頼されている部下がリーダーとしてチームを動かしているケースもあります。ですから、リーダーシップとは究極的には自分の上司をもリードできることがある、という考え方を持つべきだと考えています。

 自分自身の人生を主体的に選択し、リードすることこそがリーダーシップの出発点です。また、どんな肩書きであっても関わるプロジェクトでリーダーシップを発揮することもできますし、身近なロールモデルとなること自体がリーダーシップと言えるでしょう。ヒエラルキーや序列にとらわれがちな企業風土を乗り越え、誰もがリーダーシップを強化できる、トレーニングできる前提で人材育成に取り組むこと。そこに企業がまずできるアクションがあると考えています。

父スティーブン・R・コヴィー氏から学んだリーダーシップ

――父であるスティーブン・R・コヴィー氏から学んだことについて教えてください。

 リーダーシップの観点で一番印象に残っているのは、やはり父から教わったリーダーシップの定義そのものが大きいと思っています。父は常に「リーダーとは、その人自身がインスパイアする存在である必要がある」と説いていました。その人自身が持っている価値やポテンシャルを、しっかりと言葉にして伝え、コミュニケーションすることがリーダーの役割だというのです。

 リーダーとはただ旗を掲げて前を進む人でも、無理やり後ろから突き動かす人でもありません。その人がまだ自分で気付いていない価値や可能性も含めて、言葉にして伝えてあげることで、その人が自分自身を信じることができるようになる。この考え方こそ、父から教わった最大の財産だと思っています。

 私自身も、組織のメンバーに対して、その人の素晴らしさや持っている才能について伝えることを心がけています。他のメンバー同士でもそうした声掛けが行き交うことで、リーダーシップが育まれるのだと考えています。そうした意味で、リーダーの定義を父から受け継いだことが最大の学びでした。

日本企業における社内「飛び級」導入のヒント

――日本社会には飛び級制度が基本的になく、年功序列の色が強いです。部下が上司よりリーダーシップを取れる場面について先ほど話しましたが、企業が飛び級のような教育を実施するにはどうしたら良いと考えますか。

 飛び級制度がないことや、年功序列というヒエラルキーがしっかりしている点については、日本の企業文化の特徴としてよく聞きます。柔軟性が欠けていると思われるかもしれませんが、実際にはトヨタ自動車のようにヒエラルキーを超えて運営している企業も存在します。トヨタのかんばん方式は肩書きに関係なく、現場の誰もが問題を見つけたらチームのために声を上げることができます。その声にきちんと耳を傾ける仕組みこそ、素晴らしい例だと思います。

 権限移譲やチームワークを大切にし、個人の声を尊重する文化があれば、役員のための専用駐車スペースのような形式的な序列も必要なくなります。日本企業だから必ず年功序列に縛られる」ということではありません。現実には、社内飛び級制度を導入し抜擢人事を実施している企業も増えており、年齢や階級に関係なく、実績や能力を評価する流れが出てきています。

 ですので、どの企業においても、型にはまったやり方を超え、実力や成果によって新しい役割に挑戦できる文化を育ててほしいと思います。また、日本でもそのような改革に向けた動きが進んでいることも認識してもらえたらと思います。権威主義的な体質だけでなく、個々の力がきちんと認められる組織を目指していくことが大切です。

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