アサヒ、アスクルに続き、ジャガー・ランドローバーで何が起きた? 止まらないサイバー攻撃:世界を読み解くニュース・サロン(2/3 ページ)
大手企業へのランサムウェア攻撃が続いているが、英国ではジャガー・ランドローバーが被害を受け、英国経済に大きな打撃となった。犯行声明を出したグループの主犯格は10代の若者だという。被害企業の教訓を学び、対策を強化していく必要がある。
英国経済に壊滅的な被害
ジャガー・ランドローバーについて簡単に説明すると、まず、英国のジャガー(創業1922年)とランドローバー(創業1948年)を2000年に米フォードが買収。その後、2008年にインドの大手自動車メーカーのタタ・モーターズが、両社をフォードから買収して統合した。
世界的にはそれほど大きなシェアを占めないものの、ジャガーもランドローバーも、日本や米国でもよく見かける人気ブランドであることは間違いない。英国では最大の自動車メーカーだ。
同社がサイバー攻撃を受けたのは、2025年9月2日。同社は「事業運営が深刻に混乱した」と発表。すべての生産・小売業務を停止せざるを得なくなった。
9月24日には、業務停止期間を10月1日まで延長すると明らかにした。その後、10月末までに生産プロセスを部分的に再開したと報じられているが、現在も完全復旧には至っていない。
被害は壊滅的である。主要工場は全面停止になり、従業員は自宅待機を強いられた。11月に公開された決算報告によると、この攻撃に対応するために発生した費用は1億9600万ポンド(約400億円)に達するという。攻撃前は、英国で1日1000台ほどの車を生産していた。それが停止した影響は極めて大きい。
被害はこれだけにとどまらない。サプライチェーンの部品サプライヤーは宙づりとなり、販売店は修理や新車登録すらできない状況になった。影響を受けた企業などは5000組織に及ぶとされる。英監視機関サイバー・モニタリング・センター(CMC)の報告によると、このケースは英国史上最も経済的損失の大きいサイバー攻撃の一つになった。
英国の中央銀行であるイングランド銀行は、今回のサイバー攻撃を、2025年第3四半期の成長鈍化(予想よりGDP伸び率が低かった)の原因の一つに挙げている。
政府もこの事態を無視できなくなった。取引先のサプライヤーを救済するために支援策を協議し、15億ポンド(約3000億円)の融資保証を発表した。被害を受けた企業が金融機関から運転資金を調達する場合、英国輸出信用保証局(UKEF)がその返済を最大80%保証するという仕組みだ。
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