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「脱・PoC止まり」 SMBCグループが示す「日本で考え、海外で実装する」AI戦略の勝算AI時代の「企業変革」最前線(2/2 ページ)

日本企業のAI導入は「PoC止まり」に陥ることが多い――。多くの企業がこうした問題に直面する中、SMBCグループは、この課題に正面から向き合っている。

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日本で考え、海外で実装する 海外戦略で重視すること

中出: AI実装の動きは国内だけでなく、海外にも広がっています。SMBCグループは8月、シンガポールにAIエージェントの新会社を設立しましたね。戦略の中心を国内に置きながら、実装の現場を海外に出す──この構造が面白い。

磯和: 狙いは明確です。東京では戦略を立案し、シンガポールではそれを素早く実装・検証する場にしました。シンガポールはAI人材の採用が速く、開発環境も成熟しています。アジアの金融機関やテック企業との連携も活発で、外部と協働しながらリープフロッグ的に(段階を飛び越えて)開発を進められるのが大きいです。

中出: 生成AIはとにかくスピードが命ですからね。東京とシンガポールが日単位で連動し、仮説検証を高速に回せる体制があるのは強いですね。

磯和: 正解を待つよりも、正解を作るスピードが価値になりますから。国内ではどうしても調整やリスク審査に時間がかかります。実装の場外に置くことでスピードを鍛えることにしたんです。結果として、現地での実装スピードが日本にも好影響を与えています。

中出: “考える東京”と“動くシンガポール”。まさに二層構造のAXですね。

磯和: 日本企業にとって、海外拠点は単なる子会社ではなく、“新しい文化を生み出す実験場”であるべきです。AIを使うことで、組織そのものがどう進化できるか──その検証を現場レベルで行う拠点なんです。

AI普及で広がった新しい考え方 「データを整える前に使う」

中出: 新会社では、AIエージェントを汎用的に活用していくとのことですが、具体的にはどのような業務や領域での導入を想定していますか。

磯和: 実際の導入では、法人融資や稟議など、確認工程が多い領域から始めました。AIが契約書やデータを読み込み、過去事例を参照して判断の根拠を提示する。私たちはAI導入の前提として、業務プロセスそのものをデジタル化するBPR(業務再設計)を進めています。10以上のアプリケーションをまたぐ審査や起票業務を統合し、AIが“参照できるデータ”に変える取り組みを加速しています。

 AIエージェントとは、プロセスのデジタル化を実現するための手段。それによって人の代わりに情報をスピーディかつ質高く収集・要約し、判断を支援するものであるべきだと思います。


テックタッチ取締役CPOの中出昌哉氏(提供:テックタッチ)

磯和: 全ての領域でAIを真にうまく活用するためには、本来データが構造化されていることが欠かせません。銀行には膨大なトランザクション(送金や振込、貸付、為替などの取引データ)がありますが、非構造データが多いほか、いまだにコボルと呼ばれる古い業務システム言語で書かれたシステムも多く、AI活用の大きな壁になってきました。

 しかし最近では、MCP(Model Context Protocolの略。異なるアプリケーションやデータを統合的に扱える仕組み)のように、構造化されていない情報をそのまま扱える技術も登場しています。

 「データを整える前に使う」という新しいアプローチが、いよいよ現実味を帯びてきているんです。

中出: 事業ど真ん中のAI活用を、ここまで明確に言語化できている企業は本当に少ないですよね。“整っていない現場”からAI活用を始めるという発想に、僕も共感します。

 AIは既存システムの延長線ではなく、AIネイティブな前提で業務を再設計して初めて価値を生むと思っています。プロダクト開発も同じで、元あるサービスにAI機能をつけただけでは進化を発揮できません。そこがこれまでのITとの違いですね。

磯和: AIを活用すれば、これまで段階的に整備してきたプロセスをリープフロッグ的に再構築することができます。海外預金のような、まだ強化の余地がある領域を伸ばすことで、グローバルでの競争力を飛躍的に引き上げられると考えています。

 とはいえAIも一つのツールですから、最近は加熱しすぎている気はします。結局、“弱みを強みに変える”ための手段としてもっとシンプルに考えればいい。今では誰もが当たり前に使っているエクセルだって、かつては「信用できない」と電卓で検算していた時代もありました(笑)。AIも今は過渡期ですが、やがて誰もが当たり前に使う時代が必ず来ますからね。

後編:「AI活用は40点」──SMBCグループ、“厳しい自己評価”の裏で探り当てた「営業の核心」とは?

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