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「脱・PoC止まり」 SMBCグループが示す「日本で考え、海外で実装する」AI戦略の勝算AI時代の「企業変革」最前線(1/2 ページ)

日本企業のAI導入は「PoC止まり」に陥ることが多い――。多くの企業がこうした問題に直面する中、SMBCグループは、この課題に正面から向き合っている。

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 日本企業のAI導入は「PoC止まり」に陥ることが多い――。

 多くの企業がこうした問題に直面する中、三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)は、この課題に正面から向き合っている。

 同社は2025年8月、シンガポールにAI実装の専門会社を設立。日本で戦略を考え、開発環境が成熟したシンガポールで実装する――という二層体制をととのえた。

 「日本企業にとって、海外拠点は単なる子会社ではなく、“新しい文化を生み出す実験場”であるべきだ」(三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 CDIO 磯和啓雄氏)

 実装を海外拠点に移すことで、SMBCグループにおける社内文化や、経営層の判断の在り方は、どのように変化しているのか。前編となる本記事では、同社のスピーディーなAI活用を支える海外戦略の考え方、AIエージェント活用の方針について、磯和氏に聞いた。

 聞き手は、テックタッチ取締役 CPO/CFOの中出昌哉。

「判断の在り方」が変わる──SMBCグループがAXと本気で向き合うワケ

磯和: 金融は、AIとの親和性が最も高く、かつ最も慎重さが求められる領域です。私たちは膨大なデータを扱い、社会的信用の上に成り立っている。その中でAIを活用するということは、単に業務を効率化する話ではなく、「判断の在り方」そのものを変えることを意味します。だからこそ、SMBCグループがAX(AIトランスフォーメーション)を本気で語る責任があると考えています。

中出: 確かに、AIの導入は多くの企業で進んでいますが、AIを経営の中枢――つまり「意思決定の構造」にまで踏み込んで再設計している企業は、まだ多くありません。その点、SMBCグループは金融という最もリスク耐性の高い現場で、AIを“社会実装”している。まさにAXの最前線に立つ存在だと思います。

磯和: AIの導入を単なる「効率化プロジェクト」に終わらせないこと。それが、私たちが最初に意識したことでした。AIは判断を支えるパートナーであり、組織の思考様式を変える存在なんです。

「まず試す」文化をどう作った? 「AIと協業」する組織の在り方

中出: SMBCグループは“AIをどう使うか”ではなく、“AIを前提にどう組織を変えるか”を考えているのが印象的です。

磯和: そうですね。AIを導入することが目的ではなく、AIを前提に考える、いわばAIネイティブな組織を目指しています。

 日本企業は、終身雇用や総合職制度といった独自の仕組みの上に成り立っています。それは一見、古いように見えて、実は長期的な学習や信頼関係を基盤にしたイノベーションの土壌でもあります。

 明治時代の富岡製糸場が西洋技術を柔軟に取り入れて産業を興したように、私たちも日本的な組織文化の中で、人とAIが協働する“新しい日本型イノベーション”を形にしたいと考えています。


三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務CDIOの磯和啓雄氏(提供:テックタッチ)

中出: 「日本はAI活用が遅れている」と言われることも多いですが、いまのお話のように“日本型の文化をどうAIで生かすか”という視点で見ると、もっと前向きに取り組めますね。

磯和: 3年前にAI活用を議題に上げたら、社内全体として「生成AIは金融で使うにはまだ早いのでは」という慎重な空気がありました。当時はハルシネーション(AIが事実と異なる内容をもっともらしく生成してしまう現象)も多く、リスクに対して慎重になるのは当然でした。けれど、私は触らなければ理解できないと考えました。

 SMBCグループでは、社員が新規事業や改善提案を経営トップに直接プレゼンテーションできる「CDIOミーティング」という場があります。この仕組みを生かし、社員自身がAI活用のアイデアを提案し、PoC(小さな実証)を始められる環境を整えました。現場の課題意識からスタートすることで、“上からの指示”ではなく“自分たちの挑戦”としてAIを使う文化が広がっていったんです。

中出: なるほど。高速にPoCを行えたのは、既存の仕組みをうまく生かしたからなんですね。

磯和: そうなんですよ。その結果、2024年度だけで50件を超えるPoCに予算をつけるまでになりました。今は、実装を積み重ねた先にどのような戦略を描くかというフェーズに移っています。

中出: PoCで終わらせず、戦略に昇華させるというのがすごく重要ですよね。「まず試す」「そこから学ぶ」というアジャイルな発想が、SMBCグループの企業規模でも機能しているのは驚きです。

磯和: リスクを避けるより、リスクを管理する。AI導入でも同じです。

 AI活用は動的であり、完成形を描くこと自体が不自然です。AIを“禁止する”のではなく、“安全に使う文化”を作る方が建設的なんですよ。AIを導入してから、意思決定のスピードが上がりました。データに基づいた判断が増え、組織がより動的になった。AIが経営判断の質を上げる――まさにAXの第一歩だと思います。

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