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物流DXの成否を分ける「評価シート」どう作る? アウトソースを“丸投げ”にしない方法仙石惠一の物流改革論

アウトソース先の物流会社が、社内外の顧客から見て、納得してもらえる水準にあるかどうか、物流会社の客観的パフォーマンスを把握するためにもなくてはならない道具だといえる。そこで今回は、この「物流評価シート」について解説したい。

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連載:仙石惠一の物流改革論

物流業界における「2024年問題」が顕在化している。この問題を克服するためには物流業の生産性向上以外の道はない。ロジスティクス・コンサルタントの仙石惠一が、運送業はもちろん、間接的に物流に携わる読者に向けて基本からノウハウを解説する。


 日本企業が海外に進出する際、物流業務で失敗しないために押さえておくべきポイントは何か――。多くの会社が物流業務をアウトソース(外注化)する中で、本連載ではこれまで、アウトソース先の物流会社を正しく選定し、管理するためのステップを見てきた。

 海外でアウトソース先の物流会社を管理する際に、大変役に立つのが「物流評価シート」である。

 アウトソース先の物流会社が、社内外の顧客から見て、納得してもらえる水準にあるかどうか、物流会社の客観的パフォーマンスを把握するためにもなくてはならない道具だといえる。そこで今回は、この「物流評価シート」について解説したい。


海外で物流支援を行う際に役立つ「物流評価シート」を紹介する。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

著者プロフィール:仙石 惠一(せんごく・けいいち) 

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合同会社Kein物流改善研究所代表社員。物流改革請負人。ロジスティクス・コンサルタント。物流専門の社会保険労務士。

1982年大手自動車会社入社。生産管理、物流管理、購買管理を担当。物流Ierの経験を生かし荷主企業や物流8社の改善支援、各種セミナー、執筆活動を実施。

著書『みるみる効果が上がる!製造業の輸送改善 物流コストを30%削減』(日刊工業新聞社)『業界別 物流管理とSCMの実践(共著)』(ミネルバ書房)

その他連載多数。

なぜ物流を「評価」するのか? 海外拠点を強くする3つの目的

 評価というと、あまり良いイメージを持たれない方も多いのではないだろうか。昔から学校では成績評価が行われ、社会人になると業績評価が行われている。

 この評価は単に今の実力を測定するだけにとどまらない。自分の強み、弱みを明確にするとともに弱点を補強していくためのツールであることは明白だ。

 海外で物流支援を行う際にも現地工場の業務のパフォーマンスを評価し、弱点を修正していくことにより、厳しい企業間競争に打ち勝っていかなければならない。

 評価をうまく活用することが、成長につながる。そう前向きに捉え、物流評価の目的について考えてみよう。

目的1:現状の把握

 現地物流業務が果たして社内・社外の顧客から見て、満足できる水準にあるだろうか。これに自信を持って答えられなければならない。顧客は概して自分が期待しているレベル以上の仕事をしてもらって初めて満足するものである。この期待値以上のレベルの仕事をしていくためには最低でも「現状の実態を把握」しておかなければならない。これが第1の目的である。

目的2:段階的レベルアップの動機付け

 では顧客の期待値以上のレベルとはどういった水準なのか。これはベンチマーク活動を行う中で見えてくるものである。物流評価を行う際には、ぜひベンチマーク値を考慮してハードルを設定していこう。例えば、現在は10の水準だが、翌年は15の水準まで向上しベンチマークを達成しようといった「段階的レベルアップの動機付け」が第2の目的である。

目的3:自社パートナーの現状把握と改善活動

 さらに自社にとどまらず、自社グループ全体の底上げが必要である。つまり、協力会社やアウトソース先の物流会社を含めてレベルアップしなければ競争に勝ち残ることは難しい。この「自社のパートナーの現状把握と改善活動」も必要であり、こういった活動を行っていくためにも物流評価は必要になるのだ。これが第3の目的ということになる。

 現状を把握し、ステップアップのためのハードルを設定し、自社だけでなくパートナーまで広げグループ全体で厳しい競争に打ち勝っていくことが物流評価の目的なのである。

成果だけ見ても改善できない 物流DXに効く「結果」と「要因」の切り分け

 物流評価を行う際には「結果系評価項目」と「要因系評価項目」の2種類が必要になる。

 結果系評価項目は、日常の物流業務を行った結果として表れる項目である。これには売上高物流コスト比率や誤供給発生率などが含まれる。

 要因系評価項目は、結果系評価項目につながる要因となる項目で、これにはトラック積載率や標準作業順守率などが含まれる。

 結果系項目は今の実力を示すことができるが、その実力を向上するためには要因系項目を見ていかなければならない。つまりこの2種類をバランスよく把握していくことがステップアップには欠かせないのだ。何を結果系の評価項目とし、何を要因系の評価項目とするかについて慎重に考えていこう。

失敗しない物流評価シートの作り方

 設定しようとする項目にはできている、できていないといった「100かゼロか」といったものもあるだろう。しかし大抵の場合には水準を評価することになると思われる。例えば、その値が小さければよいとされる「売上高物流コスト比率」を例にとれば、ベンチマークは4.5%だが現状は5.5%だったとする。

 一気に4.5%まで改善することが困難な場合にはその中間点を設けよう。評価は4段階(4点満点)で行うことをおすすめする。今の例でいけば4.5%は4点、5.0%が3点、現状の5.5%を2点、それよりも悪い値であれば1点とすることが考えられる。

 併せて、項目ごとに重み付けをしていこう。より重要な項目は評価点を倍にするなどして総合点を集計するにあたってメリハリをつけていくとよいだろう。

 また評価は誰が評価しても同じ結果が出るように工夫したい。例えば「工場内通路はきれいである」という評価項目を設定するよりも、「工場内通路にフォークリフトのタイヤ跡がない」とした方が評価者によるばらつきは少なくなる。

 さらに自社の物流レベルを誇れるものとすべく、高物流品質であることをPRできる項目を入れておこう。例えば「年間無事故月数」や「顧客への定時納入率」など社外の人が見て素晴らしいと思うような項目を入れておくと社外評価が高まるとともに、社内モチベーション向上にもつながる効果があるのだ。


評価シート作成のポイント(筆者作成)

工場内物流評価表の例(筆者作成)

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