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今の生成AIは「エモくない」──次世代SNSが挑む「感情を理解するAI」の真価(1/2 ページ)

今の生成AIは、まだ「エモくない」──宇宙事業を手掛けるスペースデータ(東京都港区)社長の佐藤航陽氏は、現状の生成AIの“限界”をこう指摘する。このような、AIが苦手とする“人間の本質”に挑む新たなSNS「Lovvit」(ラヴィット)が登場した。創業者と佐藤氏に感情を取り込むSNSの可能性を聞いた。

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 今の生成AIは、まだ「エモくない」──宇宙事業を手掛けるスペースデータ(東京都港区)社長の佐藤航陽氏は、現状の生成AIの“限界”をこう指摘する。人間の行動原理の大部分を決めるのは「感情」や「無意識」で、論理や理性だけでは語れない複雑な構造があるという。 

 このような、AIが苦手とする“人間の本質”に挑む新たなSNSが登場した。FAVOLIST5代表取締役の有田雄三氏が率いる次世代SNS「Lovvit」(ラヴィット)だ。

 ユーザーの投稿を基に、一人一人の好みを反映した「パーソナルAIコンシェルジュ」を育成するサービスで、「自分以上に自分を理解する相棒」となるAIを育てるという。有田氏は「これまでのAIとは異なる、感情を扱うAI」と胸を張る。

 最大の特徴は、従来のプラットフォームが「大衆の最適化」を目指していたことに対し、同サービスは「個人を掘り下げていく」ことに焦点を当てている点にある。有田氏が進めるこの取り組みは、各社がまだ成し遂げられていない「感情」の取り込みというフロンティアを切り開く可能性を秘めている。

 こうした有田氏のビジョンを、投資家も高く評価した。 FAVOLIST5は、すでに1.1億円の資金を調達。出資者には、ソフトバンクグループ創業者・孫正義氏の実弟で起業家・投資家として知られる孫泰蔵氏やエンジェル投資家、IT業界を代表する経営者などが名を連ねている。

 有田氏は、エンタメ業界に長年携わり、そこで蓄積してきた経験を生成AIに取り入れた。有田氏とIT業界を俯瞰してきた佐藤氏に、SNSの在り方、そして生成AIの限界について聞いた。


有田雄三(ありた・ゆうぞう) FAVOLIST5代表取締役CEO。2005年エイベックスに入社。音楽制作部門にてMay J.、シシド・カフカなどを担当。その後、グループ戦略室でのR&Dセクション立ち上げ責任者、新事業推進グループ、デジタルクリエイティヴグループのチーフプロデューサーを歴任。2018年にはグループ内にフィンテック事業会社を設立、代表取締役社長に就任した。2020年に独立。新規事業開発やコンテンツ開発のコンサルティング、マーケティング支援事業を行うThaliaを設立後、FAVOLIST5を立ち上げ、代表取締役CEOとして次世代エンタテインメント・プラットフォームの開発・運営を率いる

佐藤航陽(さとう・かつあき) スペースデータ代表取締役社長。早稲田大学在学中にIT企業を設立、ビッグデータ解析やオンライン決済の事業を立ち上げて世界8カ国に展開。2015年に20代で東証マザーズに上場。累計100億円以上の資金調達を実施し、年商200億円以上の企業に成長させる。2017年に宇宙開発を目的にスペースデータを創業し、衛星データから地球のデジタルツインを自動生成するAI技術を開発。Forbesの「30歳未満のアジアを代表する30人」や「日本を救う起業家ベスト10」に選出される。

感情を理解するAIが切り拓く 新しい「人間とAIの関係」とは?

 有田氏の挑戦は、エンタメとITの融合から始まった。Lovvitの構想が生まれたのは2020年。新型コロナウイルスによって世界が揺れ動き、特にエンタメ業界ではライブやイベントが軒並み中止となった。交流や楽しみの場が失われる中で、アーティストやファン、クリエイターや観客の関係性は一気に断たれ、オンライン配信が急増。だがオンラインはリアルな交流や熱量には及ばなかった。

 その時、有田氏は「どうすれば人と人をポジティブにつなげられるか」という問いと向き合う。この取り組みは、志を同じくするコンサルタントや開発者が集まり、プロダクト開発を楽しむ場として出発した。「週末起業」のような感覚だ。草野球やバンド活動の代わりに、彼らは「週末に集まって新しいSNSを考える」という活動を続けた。その発想や試行錯誤はやがて広がりを見せ、Lovvitという事業へと発展していく。ここには、有田氏の長年のキャリアから得た知見が反映されている。


エンジェル投資家の面々

起業家・投資家として知られる孫泰蔵氏も投資家として名を連ねている

エンタメコインからLovvitへ

 有田氏はエイベックス時代、新規事業「エンタメコイン」を立ち上げた経験を持つ。「ファンの応援は、グッズ購入やライブ参加だけでない。「記事をシェアしたり口コミで広めたりする行動にも価値があるはず」と考え、それを可視化する仕組みを同社で提案したのだ。この取り組みは、ファン活動の熱量を「数値化」する試みとして注目を集めた。

 この経験が残した最大の問いが「個人の価値をどう表現し、いかにして可視化できるのか」だ。後にLovvitの設計思想へとつながっていく。単に情報を集めて表示するだけのSNSではなく、ユーザー一人一人の価値観や感情の動きを基盤としたプラットフォームをつくるという発想だ。

広告に依存しないSNSと個人回帰の未来

 Lovvitは一般的なネイティブアプリではなく、あえてWebブラウザベースで構築している。これは単なる技術選択ではなく、事業全体の思想を象徴しているという。

 有田氏は「アプリはGoogle PlayやApp Storeに依存し、審査や手数料に縛られます。私たちは開かれたインターネットに回帰したいという思いがあり、Webベースを選びました」と話す。

 従来のSNSは滞在時間を最大化し、広告収益を得る構造が中心だった。佐藤氏はこの仕組みがユーザー体験を損なっていると指摘する。情報過多やアルゴリズム依存がユーザーを疲弊させるからだ。

 Lovvitは広告に依存せず、ユーザー課金・プレミアム機能・企業リサーチを収益源とし、健全なプラットフォームを目指す。佐藤氏は「これは時代の要請に合致した挑戦であり、SNSの在り方を根本から変える可能性がある」と評価する。

 サービスの特徴は、ユーザーが「心を動かされた映画トップ3」や「人生最高の寿司店トップ3」といったテーマで、ランキングを投稿する仕組みだ。AIはその理由を解析し、ユーザー自身も気付いていない「価値の差分」を浮き彫りにする。こうして育ったAIコンシェルジュは、映画や本の推薦はもちろん、食事の場や体験選びをサポートする「相棒」となるのだ。

 「限られた時間の中で人生の質を向上させるには、さまざまな体験価値が必要だと思います。その体験自体をどうしたらより高い精度で、その人にとってフィットするものに提供できるのかが大事だと考えています」(有田氏)

 今までのプラットフォームのように「大衆の最適化」ではなく、「個人を掘り下げていく」ことに焦点を当てるのだ。Lovvitは、米国のプラットフォーマーに握られてしまった価値をもう一度個人に取り戻すことを狙う。アプリ市場の支配構造を超え、誰もが自由にアクセスできる形にすること。それが、Lovvitが目指す「純度の高いユーザー体験」の土台となっている。

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