スマホはディズニーの”魔法”を壊すのか? 没入感を生むUXと削るUX:グッドパッチとUXの話をしようか(2/4 ページ)
「ゲストがスマホの画面を見るたびに、パークの魔法が壊れてしまう」――ディズニーが効率化を図って導入した公式アプリがもたらした弊害だ。一方、このテクノロジーによって新たに生み出された魔法も存在する。アプリによってゲストの体験はどう変わったのか?
「全部知っていないと楽しめない」という感覚の正体
ディズニー内でアプリが使用されるようになってから、攻略サイトやYouTubeでの解説、最新の混雑予想カレンダーのチェック、SNSで共有される「勝ちパターン」のスケジュールといった情報を事前に収集し、当日に備える人が増えました。
高騰するチケット代やパーク内での課金に加え、遠方からの宿泊前提の来園者もいます。「できることなら、無駄なく、たくさんの楽しい体験を詰め込みたい」と最大限の楽しみを求めるのは自然なことです。
結果的に、情報や事前準備に乗り遅れると、「人気アトラクションにほとんど乗れない」「レストランも行列続きで落ち着いて食事ができない」といった体験になりやすく、「ちゃんと調べてこなかった自分が悪い」と感じてしまう構造も同時につくられてしまいました。
これは「情報をうまく整理して活用できる人」「情報が多すぎて処理しきれない人」の間で、体験の差が”楽しさの差”として錯覚させられているとも考えられます。
「全部知っていないと楽しめない」というのは、情報社会特有の“感覚格差”が、テーマパークという限られた1日であったり、スマホと睨めっこする他の来園者が見えたりしてしまうことにより、分かりやすく表面化している状態ともいえます。
「最大限楽しむ」はみんな同じ体験なのか?
ここで重要なのは、そもそも「最大限楽しむ」という言葉の中身が、人によって全く異なるはず、ということです。例えば、同じ1日でもパーク内での過ごし方には以下のようにバリエーションがあります。
- 絶叫アトラクションをできるだけ多く制覇したい学生グループ
- 小さな子どもと一緒に、無理せずゆっくり回りたい家族
- パレードやショーを中心に、写真や映像を撮りたいディズニー好きカップル
- 久しぶりに集まった友人と、のんびり歩きながら話す時間を大切にしたいグループ
同じ「最大限楽しむ」でも、重要な指標が「アトラクションの数」「子どもの機嫌」「パレードの位置取り」「風景を楽しむ余白」のどれなのかによって、最適な1日の形は全く変わるはずです。これこそ「その人の、その時のシチュエーションに合わせて変わる」というユーザー体験の本質なのではないでしょうか。
しかし、現在の公式アプリやネット上に公開されている多くの攻略情報は「できるだけ多くアトラクションに乗る」「人気アトラクションを取りこぼさない」といった“効率重視モード”に寄りがちです。
その結果「そういう楽しみ方が合う人」にとっては心強い一方で、そこにフィットしない人にとっては「このテンションについていけない自分は、うまく楽しめていないのかもしれない」という息苦しさにつながっているのかもしれません。
ディズニー側も、魔法を支えるテクノロジーが魔法を削るテクノロジーになっている、この“息苦しさ”に気付き始めています。冒頭で触れた、イマジニアリングのチーフ・クリエイティブ・オフィサーの「ゲストがスマホに視線を落とす瞬間、パークの魔法が途切れてしまう」という発言はこれらの問題意識から出てきたものです。
パークは、建築や音楽、香り、光、キャストとのやりとり、たまたま目に入った風景やショーなど、「スクリーンの外側の情報」が連続している空間です。そこに「画面を更新する」「抽選結果を確認する」「空き枠を探す」といった行為が入り込むと、どうしても「目の前の世界」より「手の中の世界」を優先してしまう瞬間が増えます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ユニクロのセルフレジ、なぜあれほど「快適」なのか? 「徹底的な分かりやすさ」はこう作られている
セルフレジやセミセルフレジが「分かりにくい」と話題になる一方、ユニクロのセルフレジはなぜ、あんなにも使いやすいのか? 誰でも迷わず簡単に使える「徹底的な分かりやすさ」はどう作られているのだろうか。
スシローの注文用ディスプレイ「デジロー」は何がすごい? 大画面に盛り込まれた数々の仕掛け
スシローの店舗で続々導入されている、注文用の大型ディスプレイ「デジロー」。大画面で注文しやすくなったのは言わずもがな、ユーザー体験を上げる細かい仕掛けの数々を見ていきましょう。
入場料2530円の本屋が話題 「本を買う」だけでない、一風変わった本屋の「納得の体験価値」
書店が減っている中で、一風変わった本屋の人気が高まっている。「入場料を取る本屋」に「席料が安くなるブックカフェ」など、本を買うだけでない、新しい本屋の体験価値に迫る。
「パーソナライズ機能」は、なぜ魅力的? ナイキやびっくりドンキーなど多業界で広がる
さまざまなサービス、プロダクトが「パーソナライゼーション」されつつある。ナイキのシューズやびっくりドンキーの新業態でも広がっている。なぜ、人々はパーソナライゼーションに魅力を覚えるのか?
三日坊主にはなれない? Duolingoの「離脱ユーザー」を引き戻す画期的な仕組み
今年の抱負の常連でもある、語学学習ですが、三日坊主になってしまう人も多いのではないでしょうか。語学学習アプリ「Duolingo」はサービス内で、離脱ユーザーを引き戻す画期的な仕組みを整えています。どんな体験が待っているのかというと……

