スシローの注文用ディスプレイ「デジロー」は何がすごい? 大画面に盛り込まれた数々の仕掛け:グッドパッチとUXの話をしようか(番外編)
スシローの店舗で続々導入されている、注文用の大型ディスプレイ「デジロー」。大画面で注文しやすくなったのは言わずもがな、ユーザー体験を上げる細かい仕掛けの数々を見ていきましょう。
連載:グッドパッチとUXの話をしようか
「あの商品はどうして人気?」「あのブームはなぜ起きた?」その裏側にはユーザーの心を掴む仕掛けがある──。この連載では、アプリやサービスのユーザー体験(UX)を考える専門家、グッドパッチのUXデザイナーが今話題のサービスやプロダクトをUXの視点で解説。マーケティングにも生きる、UXの心得をお届けします。
本記事はグッドパッチブログ「【イカしたUIを見る】Vol.5 スマホから飛び出した体験設計!リアルの世界でこそ輝くUI」の転載です。
スマホやPCのアプリがスムーズに使えるのは、操作の仕方を考えなくても分かるように設計されているからです。この使いやすさの仕組みは、UI(ユーザーインターフェイス)と呼ばれています。
しかし、UIの世界は手元の画面だけにとどまりません。街の飲食店の注文端末やコンビニのセルフレジなど、日常のあらゆる場所に人が使いやすいように設計されたUIが存在します。今回はそんな「街にあるUI」を探し、身近な場所に隠れたデザインの面白さを再発見してみましょう。
スシローの「デジロー」 ただ大画面なだけではない、細かい仕掛けの数々
「デジロー」は、回転寿司チェーンであるスシローが店舗で提供する、大型ディスプレイに映し出される注文システムです。「回転レーン×デジタルビジョン」をコンセプトに、ただ注文するだけでなく、回転寿司らしいエンターテインメントを体験できるよう工夫されています。
デジローには大きく3つの基本画面があります。回転寿司の世界観を映す「回転寿司モード」、寿司やドリンクを選ぶための「注文パネル」と、全てのメニューをタイル状に並べて探索できる「すしナビ(探索モード)」です。
こちらがメインとなる回転寿司モード。大画面ならではの奥行きを利用した三層構造の設計がイカしているなと思いました。
- 奥のレイヤー:寿司屋を連想させるのれんや障子の背景レイヤー。操作はできませんが、キャンペーン情報などが映し出され、世界観の演出と宣伝効果を両立しています。
- 中央のレイヤー:寿司が流れる回転レーン。これによって「回転寿司に来ている」という臨場感が再現されます。タップして直接注文することもできます。
- 手前のレイヤー:注文パネル。奥の回転寿司ビューを完全には隠さず、手前にパネルが立ち上がるので、まるで本物の回転寿司レーンを前にタブレットを操作しているような感覚になります。
効率ではなく「思い出になるか」を考えられた注文体験
注文パネルは画面上に2つ表示でき、テーブルを挟んで左右両方から操作できるのが特徴です。一般的な注文画面では、左上からメニューが並んで右下に注文ボタンが配置されますが、デジローではその動線が左右対称に設置されています。
つまり、左右どちらの席に座っていても、パネルの近い方から自然にメニューを探し、最後に遠い方へ指を伸ばして注文するという流れになっているのです。
このパネルはサイズ感も絶妙だなと思いました。並んでいる商品画像が少し大きく、席の一番遠いところからもしっかり見えるサイズになっています。手前の人が「これ頼む?」と声をかけながらみんなで注文できるので、パネルを触っていない人にも体験を共有できます。
もう一つユニークなのが「すしナビ」と呼ばれる探索モード。ここでは商品がランダムにタイル状で並びます。検索性は高くなく、食べたいものが決まっているときには正直不便です。
しかし、あえて無秩序に見せることで「こんなメニューがあるんだ」という偶然の発見が生まれやすくなります。効率的でなくとも、体験としては新しい価値を提供しているのが面白いところです。
デジローの3つの基本画面は一貫して「メニューを選んで注文する」という目的に向かって、モードやレイヤーを切り替えながら多様な注文体験を提供しています。効率的に注文を選ぶだけでなく、「スシローでの時間を楽しい思い出にしてもらう」ことを大事にしているのでしょう。
そしてそのテーマを達成する上でも非常に自然かつユニークなイカしたUIを提供しているように思います。スシローに来ているという没入感の演出、誰かとメニューを選ぶことの楽しさ、出合ったことのない寿司を食べるワクワク感など、ただ無機質に注文するのではなく、操作体験の中でどう世界観や付加価値を作るかを考えるための好例だと感じました。
利便性だけを追求してはたどりつかない、「作り手の『Humanity(人間性)』が感じられる」デザインです。
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