海外で急拡大、モールに現れた「謎のロッカー」 購買行動を“ゲーム体験”に変える仕掛けとは?:がっかりしないDX 小売業の新時代(2/2 ページ)
ショッピングモールの一角に、突然現れた66枚扉のロッカー。料金表や商品説明はなく、あるのは鍵穴だけ――。中国発雑貨ブランドMUMUSOの店舗で見かけたミステリーロッカーを手がかりに、購買行動を「ゲーム体験」へと昇華させる仕組みと、その戦略が日本の小売業に投げ掛ける示唆を読み解く。
日本の「福袋文化」との共通点
ブラインドボックス×ロッカーの組み合わせとして、日本には類似のコンセプトがすでに存在します。東京・中野の衣料品卸、土橋商店では、コインロッカー型の「福箱」自動販売機を運営しています。500円を投入してロッカーを開けると、中身が見えない箱が入っているという仕組みです。
「福箱」は、日本の正月に販売される「福袋」の概念を応用したものといえるでしょう。MUMUSOの店内ミステリーロッカーもこのようなコンセプトのものという可能性もあります。その場合、一定の金額をレジで払ってくじ引きなどでロッカーキーをランダムに受け取る形なのでしょう。いかにもありそうですが、ロッカーに価格などの表示が一切なかったのが気になります。
同様の例は英国にも
店内設置型のミステリーボックスプロモーションは欧米でも実用化されています。英国のNoonah社が開発した「Prize Locker」システムは、QRコードスキャンによる顧客登録、ユニークPINコードの発行、店舗での開封体験という流れで、顧客データの収集とプロモーションを同時に実現しています。
英国のスポーツ用品チェーンSports Directは、ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)ロンドンゲームズの開催に合わせて、「Prize Locker」を活用した店内プロモーションを実施しました。
来店者はPrize Lockerに表示されたQRコードをスキャンし、ブランドセルフィーを撮影、連絡先を登録します。登録後、メールでユニークなエントリーコードが届き、再度店舗に戻ってPrize Lockerにコードを入力すると、当選の場合はロッカーが開いてNFLグッズやゲームチケットなどの景品を受け取れます。ロッカー自体もアメリカンフットボールのロッカールームを模したデザインで、効果音演出も加えられています。
このキャンペーンの狙いは、店舗への来店促進、ファーストパーティ顧客データの収集、SNSでのUGC(ユーザー生成コンテンツ)拡散の3点です。誕生日にNFLチケットを当てた顧客のエピソードが話題になるなど、ブランドとの感情的なつながりを生む施策として成功しました。
MUMUSOの物理的な鍵を使う方式は、このデジタルシステムとは対照的ですが、「開ける」という行為自体をイベント化している点は共通しています。
値引きでも品ぞろえでもない 小売を変える「ゲーム体験」発想
MUMUSOのミステリーロッカーから着想を得て、日本の小売業への応用可能性を考えてみます。
MUMUSOのロッカーを見つけた際、おそらく一定金額以上を購入した顧客に参加資格が与えられ、レジで会計後に店員がランダムな番号の鍵を手渡し、顧客が対応する番号のロッカーに鍵を差し込んで中の景品を受け取る――。そのような仕組みではないかと考えました。何が入っているかは開けるまで分からない。ここにゲーミフィケーションの本質があります。
この「購買」を「ゲーム体験」に変換する手法は、小売業の未来につながると考えます。
まず考えられるのは、ロイヤルカスタマー向け特典としての活用です。一定金額以上購入した顧客に「ラッキーキー」を提供し、店内ロッカーを開けると限定品、割引クーポン、次回購入時のポイントアップなどが当たる仕組みです。「何が当たるかわからない」ワクワク感が追加購入を促進します。
次に、在庫処分の新手法としての可能性です。シーズン落ちや過剰在庫をミステリーボックス化することで、通常の値引きよりも高い価格で販売できる可能性があります。「お得かもしれない」という期待感は、単純な割引よりも生活者の興味を引きます。
Prize Lockerの事例のように、「開封の瞬間」はSNSでシェアしたくなるコンテンツでもあり、顧客自身が広告塔となって口コミ効果でブランド認知が拡大します。
「福袋」文化を持つ日本には、ミステリーボックス型プロモーションを受け入れる土壌がすでにあります。重要なのは、それを単なるプロモーションではなく、ブランド体験の一部として設計することです。
とはいえ、あのロッカーの正確な仕組みはいまだに分かっていません。次にドバイを訪れる機会があれば、必ず店舗スタッフに詳細を確認しなければと考えています。もし読者の方でDubai Festival City Mallを訪れる予定がある方がいらっしゃれば、ぜひ実際に体験してコメントで教えていただけるとうれしいです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
Uberも断念 ダークストア型即配ECが日本で根付かなかった理由
LINEヤフーと出前館は2025年8月31日で、「Yahoo!クイックマート」の終了を発表した。今回は、ダークストア型クイックコマースが日本市場に根付かない背景を解説。小売関係者が今後のEC・ラストワンマイル戦略を考えるうえでの示唆を探る。
「DXすれば万事解決」は幻想 米ドラッグストア大手の破綻にみる、デジタル投資の落とし穴
米ドラッグストア大手のRITE AID(ライト・エイド)が、わずか7カ月で2度の破綻に追い込まれ、閉店することになった。背景には、DXや業態転換だけでは解決できない、根深い問題がある。現地視察で見えてきた、今回の破綻劇の“本質”を紹介する。
なぜ米食品スーパーは「薬局」を強化するのか? 日本の小売業に示されたヒントとは
米国ではいま、食品スーパーに調剤薬局を併設する動きが加速している。なぜ、食品スーパーマーケットが調剤薬局ビジネスに積極的なのか――。その戦略的背景を探ると、日本の小売業にも参考となるビジネスのヒントが見えてくる。
顧客第一はどこへ? 広告に目がくらんだAmazonが直面する、ブランド崩壊リスク
任天堂がAmazonへのSwitch 2供給を停止した背景には、リテールメディア依存による弊害がある。広告収入を重視するあまり、Amazonは顧客体験やブランド信頼を損ないつつあり、本質的な課題が浮き彫りになっている。
ディズニーともコラボ 中国発・雑貨大手の巧みなIP戦略 店舗を「コンテンツ化」する仕掛けとは?
中国発雑貨ブランドMINISOの店舗を見ていると、単なる雑貨店ではなく、店舗そのものを「コンテンツ」であり、マーケティング資産だと捉える巧みな戦略が浮かび上がる。MINISOの戦略から、日本の小売業はどのようなことが学び取れるのか、解説する。
