海外で急拡大、モールに現れた「謎のロッカー」 購買行動を“ゲーム体験”に変える仕掛けとは?:がっかりしないDX 小売業の新時代(1/2 ページ)
ショッピングモールの一角に、突然現れた66枚扉のロッカー。料金表や商品説明はなく、あるのは鍵穴だけ――。中国発雑貨ブランドMUMUSOの店舗で見かけたミステリーロッカーを手がかりに、購買行動を「ゲーム体験」へと昇華させる仕組みと、その戦略が日本の小売業に投げ掛ける示唆を読み解く。
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連載:がっかりしないDX 小売業の新時代
デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。
ショッピングモールの一角に、突然現れた66枚扉のロッカー。扉には「Excitement awaits」(ワクワクが待っている)の文字。けれども、料金表や商品説明はなく、あるのは鍵穴だけ――。
筆者が視察先のUAE・ドバイの大型商業施設で目にしたこの“ミステリーボックス”は、単なる奇抜なロッカーではありません。それは「買い物」という行為を「何が当たるか分からないゲーム体験」へと変換する、いま世界の小売で広がりつつある手法の象徴と見ることができます。
商品を選ばせるのではなく、あえて選ばせない。価格や機能を比較させるのではなく、開ける瞬間の高揚感に価値を置く――。この発想の転換が、来店動機の希薄化や価格競争に悩む小売業に、新たなヒントを与えています。
前編では、“韓国っぽさ”を全身にまとった中国発雑貨ブランドMUMUSOのマーケティングと中東市場での躍進について分析しました。
(関連記事:“韓国ブランド偽装”で世界を席巻 中国発雑貨のグローバル戦略から、日本企業が学ぶべき2つの教訓)
後編では、このMUMUSOの店舗で見かけたミステリーロッカーを手がかりに、購買行動を「ゲーム体験」へと昇華させる仕組みと、その戦略が日本の小売業に投げ掛ける示唆を読み解きます。
著者プロフィール:郡司昇(ぐんじ・のぼる)
20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。
現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」シニアフェロー Nextリテール分科会リーダーなどを兼務する。
公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇
公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質2025DX』
料金表も説明もない――モールに現れた「正体不明のロッカー」
筆者が2025年10月にDubai Festival City Mallを視察した際にMUMUSO店舗で見かけたロッカー。最大の特徴は、コイン投入口やカード決済端末がなく、物理的な鍵穴だけが存在していた点です。
このロッカーに関する情報は店内にもWeb上にも見当たらず、視察スケジュールの都合で残念ながら店舗スタッフに確認する時間もありませんでした。一方で、似た事例は他の小売店舗でも見られます。これらも踏まえ、このロッカーの仕組みを推測してみます。
中身は選べない、だから楽しい “ミステリーボックス”の仕掛け
MUMUSOがこのようなミステリー体験を店舗に導入している背景には、ブラインドボックス市場の急成長があると考えられます。
ブラインドボックスとは、箱の中身が購入時には分からない「ミステリーパッケージ」のことで、コレクション性とサプライズ性を兼ね備えた商品形態です。シリーズごとに複数のデザインやキャラクターが存在し、シークレット(レア)アイテムも含まれることが多く、生活者の収集欲やコンプリート欲を刺激して繰り返し購入を促す仕組みとなっています。
ブラインドボックスの市場調査によると、2024年に約170億ドル、2032年には384億ドル規模へ成長する見込みがあるということです。
中国のアートトイブランドPOP MARTが展開する「Labubuシリーズ」は、ブラインドボックス市場の象徴的存在です。POP MARTはグローバル展開・アーティストコラボ・高価格帯ラインアップなどで市場をリードしています。競合のMINISOも世界中で急速に拡大しており、店頭の目立つ場所にキャラクターのブラインドボックスを陳列しているケースが目立ちます。
「何を買うか」ではなく「開ける楽しさ」が重要
MUMUSOもこの市場に積極参入しており、パンダをモチーフとした「Mr. Pa」シリーズや、幻想的なテーマの「Emma」シリーズなど、複数の人気キャラクターを展開しています。各シリーズには6種類前後の通常デザインと1種類のシークレット(レア)フィギュアが含まれ、収集欲を刺激する構成です。
サプライズ性とコレクション性で欲望消費を刺激し、リピート購入を促す戦略は、限定品やシークレットアイテムの投入、シリーズごとのテーマ性、SNSやコミュニティーでの共有促進など、心理的・マーケティング的な仕掛けが巧妙に組み込まれています。
店舗に設置されたミステリーロッカーは、このブラインドボックス戦略の一環ではないかと推測します。
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