「予約を全て止めてください!」 老舗酒造で起きたミスから生まれた「日本酒」なぜヒットしたのか?(4/5 ページ)
300年続く酒蔵の「特別な日本酒」を襲った製造ミス。廃棄ではなく「正直に出す」ことを選んだ結果、失敗は物語となり、そこから想定外のヒット商品が生まれた。
「最高級の原料を使った普通酒」の物語が広まっていった
2025年12月8日に「酒々井の諸事情」が飯沼本家から発売された。原料に精米歩合50%の純米大吟醸クラスの米を使っているが、醸造アルコールと蒸米が混ざったため、分類上は最もランクの低い「普通酒」となる。酒々井の夜明けの販売価格は2530円(720ミリ)だが、酒々井の諸事情は1760円(720ミリ)に設定された。
発売前に加藤さんたちが最も恐れていたのは、取引先である酒販店や問屋からの反応だった。酒販店にとってかき入れ時である年末に、酒々井の夜明けの予約受付を取り止め、トラブルによって生まれた酒を扱ってもらうことになるからだ。
しかし、ふたを開けてみれば、返ってきたのは温かい言葉ばかりだった。「大変だったね。力になるよ」「困ったときはお互いさまだから」「最後まで付き合うよ!」――。
そして、酒々井の諸事情は不思議な広がりを見せる。酒販店や飲食店が「実は、飯沼本家でこういうトラブルがあって……」と、酒々井の諸事情が生まれた背景を「物語」としてお客さんに伝えてくれたのだ。そのストーリーが肴(さかな)となり、飲食店の客の間で話題になった。SNSでも、多くの人が酒々井の諸事情の酒瓶の写真と共に、飲んだ感想をコメントしている。
「酒々井の諸事情を知り、『まだ飲んだことがないけど、今度は酒々井の夜明けを飲んでみたい』と興味を持ってくださる方もいました。結果的に新たな層に当社のお酒が広がるきっかけになりました。酒々井の諸事情は、甘みがあって飲みやすいので、日本酒を飲み慣れていない方や、デザートワイン感覚で楽しみたい方に好評です。クリームチーズと合わせるのもおすすめです」
酒々井の夜明けは例年720ミリボトルで3万本ほど出荷しているが、2025年の出荷数は約2万本にとどまった。そして、酒々井の諸事情は1.8リットルが約2200本、720ミリが約8000本出荷されている。両銘柄を合計すると、例年より販売量が多い状況となった(2026年1月時点)。
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