「予約を全て止めてください!」 老舗酒造で起きたミスから生まれた「日本酒」なぜヒットしたのか?(3/5 ページ)
300年続く酒蔵の「特別な日本酒」を襲った製造ミス。廃棄ではなく「正直に出す」ことを選んだ結果、失敗は物語となり、そこから想定外のヒット商品が生まれた。
酵母は生きていた。甘すぎる酒を蘇らせた「白麹」
商品のネーミングやラベルのデザインが進んでいく一方で、杜氏の川口さんはトラブルの起きた酒の味の改良を模索していた。
「トラブルが起きたタイミングは、酵母が増殖を始め、これからアルコール発酵が盛んになる一番デリケートな時期でした。その段階で高濃度の醸造アルコールを投入してしまうと、通常は酵母が死滅し発酵が止まる恐れがあります。しかし、不幸中の幸いで醪(もろみ)の温度が通常より少し高めだったんです。酵母が活発に活動していたおかげで、アルコールのショックに耐え、発酵が止まらなかった。酵母が奇跡的な生命力を見せてくれました」
しかし、発酵は続いたものの、予定外のアルコールと蒸米が入ったことで、酒の味のバランスは失われていた。
「吟醸香といわれるお酒の香りを出す酵母が少なくなってしまったため、香りはほとんど出ません。逆に、酸が薄まってアミノ酸が高くなりました。甘みが極端に出てしまい、締まりのないダラッとした味になっていました」
ここから試行錯誤が始まった。「今の味に足りないものを補ってバランスを取るしかない」と判断した川口さんは、酸を加えるための選択肢として「酒母(しゅぼ)」(酵母を増やすための発酵の土台)、もしくは「白麹(しろこうじ)」(酸味を生みやすい麹)の投入を考えた。悩んだ末、白麹を投入することに決めたのは、他の蔵で使用実績があったこと、以前も使用したことがあり、どんな味わいの変化があるかを想像できたからだった。
そして、タンクの酒を絞る前々日の2025年11月5日、使用予定だった白麴200キログラムの半量を投入して味を確認し、翌日に残りの半量を入れた。 白麹由来の酸が加わったことで、強すぎる甘味が引き締まり、味に輪郭を持たせることができた。一度崩れたバランスをここまで立て直せたのは、杜氏の技術があってこそだ。
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