「予約を全て止めてください!」 老舗酒造で起きたミスから生まれた「日本酒」なぜヒットしたのか?(2/5 ページ)
300年続く酒蔵の「特別な日本酒」を襲った製造ミス。廃棄ではなく「正直に出す」ことを選んだ結果、失敗は物語となり、そこから想定外のヒット商品が生まれた。
トラブルを隠す選択肢はなかった 20分の会議で生まれた「生かす」アイデア
蔵人の報告を聞き、頭を抱えたのは酒造りの責任者である杜氏の川口幸一さんだ。 川口さんはすぐに事態を社長の飯沼一喜さん、営業チームに伝え、今後の対策を話し合った。
最高級の原料を使った酒は、トラブルによって味のバランスが崩れてしまっている。しかし、大量の酒をそのままにしておくわけにはいかない。なんとか「飲める商品」に仕上げて、届ける方法を模索しよう。方向性は決まったものの、川口さんは対策を考えながら数日眠れぬ夜を過ごした。
川口さんが対策を考えるのと並行して、飯沼さんと加藤さん、営業部長の金子さんの3人は商品化に向けての会議を行った。こうしたトラブルが起きたときの一般的な対応としては、トラブルが起こったことは言わず、酒瓶のラベルの色を変えてイレギュラー商品として扱ったり、「試験醸造」などのネーミングで販売したりすることがある。飯沼本家はどのような判断をしたのだろうか。
「『酒々井の夜明け』の予約を中止するために、酒販店さんなどに事情を説明する必要がありました。楽しみに待ってくれているお客さまや酒販店さんに、トラブルを隠すことはできません。誤った原材料を投入したタンクのお酒は、別商品として売り出そうという結論になり、商品名は『酒々井の諸事情』に決まりました。会議は20分ほどで終わりました」
商品名を決めるにあたり商標を調べると、北海道旭川市の酒造「男山」が「諸事情」の商標を持っていることが分かった。コロナ禍に『男山 諸事情』という商品を販売していたのだ。男山に連絡したところ、「そういう事情なら使ってください」と快く了承してくれた。
そこから、酒々井の諸事情のラベルデザインを急ピッチで進めた。飯沼本家の銘柄である「甲子(きのえね)」のデザインは、亀とねずみがモチーフとなっている。いつもは上を向いているねずみが、諸事情のラベルでは下を向いて汗をかいている。亀とねずみがそろって頭を下げるデザインを変更した。
一部の取引先からは「土下座甲子」とも呼ばれたそのデザインは、謝罪の意を表しつつ、どこかユーモアを感じさせる。裏ラベルでは、商品が生まれた経緯をイラストでポップに説明した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ローソンの車中泊は、単なる「場所貸し」ではない 見落とされがちな体験価値とは
ローソンが実施している「車中泊」サービス、これは単なる「空いている場所を貸す」というビジネスにはとどまらない価値がある。利用者はどのような「価値」を見いだしているのか。
倒産寸前なのに年収100万円アップ 売上38億円のV字回復を実現した、山梨のプリント企業の「決断と狙い」
Tシャツなどのオリジナルプリントグッズの製作を展開するフォーカスは2020年のコロナ禍、倒産の危機に陥った。しかし現在はV字回復を果たし、売り上げは約38億円に上る。この5年間、どのような戦いがあったのか?
年商54億円企業を「突然」継いだ兄弟 役員・社員が辞めていく中でも改革を続けたワケ
2023年12月、不動産会社のハタスで衝撃的な事業承継が行われた。当時、20代前半の兄弟が年商54億円の会社を突然継ぐことになったのだ。自分たちなりに改革を進める中で、役員や社員の退職も起こった。それでも改革を続けた2人の経営論を取材した。
なか卯の「床に置かれた食器」問題 企業の沈黙が呼ぶ“将来の波紋”
10月下旬、なか卯での「床に置かれた食器」の写真がSNSで拡散された。その後のなか卯の対応が適切だったようには感じない。では、どのような対応が求められるのか?
大手の生産管理システムは、なぜハマらなかった? 中小製造業が仲間と作った「現場発システム」で売上3倍を実現
中小製造業の広島メタルワークは5年で売り上げを3倍に伸ばした。同社は過去に大手メーカーのシステム導入で失敗した経験もある。どのようにして売り上げを伸ばすことに成功したのか?

