「ペンチでこじ開けるお客さま」を放置しない キリンが顧客の声を「経営の武器」にできた理由(2/2 ページ)
「顧客の声」(VoC)に注目する企業は多い。だが、それを経営判断や事業改善につなげられている企業は、どれほどあるだろうか。キリンホールディングスは、お客様相談室の業務を再定義し、体制と仕組みの構築を進めてきた。VoCを顧客体験向上に生かす、同社の取り組みを紹介する。
「キャップが開かない……」 VoC起点の改善事例
VoCが、具体的な改善につながった事例の一つが、機能性飲料「キリン おいしい免疫ケア」だ。免疫ケアを訴求することから、高齢層の利用者が多いという特徴を持つ同商品だが、発売後しばらくして、お客様相談室には「キャップが固くて開けられない」という声が繰り返し寄せられるようになったという。
特に冬場は、手が乾燥しやすく、樹脂製キャップ自体も硬くなる。実際に寄せられた声を聞いていくと、ペンチを使ったり、火であぶったりと、危険を伴う方法で開封を試みているケースも少なくなかった。
そこで、お客様相談室のメンバーは改善ミーティングで生産部に、キャップの締め付け強度を変更できないか相談。しかし、密閉性や中身である飲料の品質の観点から「簡単に変更できるものではない」という回答だった。
この問題を解決するため、お客様相談室は社内の研究開発部門と連携し、消費者調査を実施。約3カ月の調査期間を経て、キャップが締め付ける力をわずかに緩めても、安全や品質上問題ないという結論が出て、改良に至った。
その結果、改善後の冬シーズン「キャップを開けにくい」という指摘は、前年と比べて半分以下に減少したという。VoCを起点に部門が連携し、飲用時の体験価値を高めた好事例となった。
AIでVoC活用はどう変わるのか?
現在、キリンホールディングスでは、VoCの分析にAIの導入を検討している。これまで同社では、寄せられた声を人の目で1件ずつ確認・分類する方法や、テキストマイニングによって特定のキーワードを設定し、傾向を把握する手法を採ってきた。しかし、大量の声をスピードと精度を保ったまま活用するには、人手だけに頼らない仕組みが不可欠だ。
検討を進めているのが、AIによる「感情分析」だ。VoCデータを投入するだけで、声の中に含まれる「不安」「不満」「期待」といった感情の可視化に加え、傾向の要約や個別案件への迅速なアクセスも可能になるという。
例えば、「賞味期限」というカテゴリに分類される声に「ポジティブ」「ネガティブ」な声がそれぞれ何パーセントあるのかを可視化。また、「消費期限がどこに書いてあるのか分からない」「保存方法に関する疑問」など、要約した内容を見ることができる。
AIの導入により狙うのは、生産性の向上だけではない。感情の変化や違和感の兆しを早期に捉えることで、商品やコミュニケーションに潜むリスクを、これまで以上に早く発見する体制を整える。
同社はこれまで以上に、CSV経営の実現に貢献する形でVoCを事業へと還元していく考えだ。AIは今、同社のVoC活動を次のフェーズへと進化させつつある。
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