「IT部門」を持たない中小企業が、AIで年間1368時間の業務削減を実現できたワケ(4/4 ページ)
社内には専門のIT部門もAIに詳しい人材もいない。そんな中小企業が1年でAIを活用し、10の事業部が多くの業務時間削減を実現した。中には年間1368時間を削減した事業部もある。どのような取り組みをしたのか?
実装スピードを早めた「データ整備」
他にも、リノベ事業部では顧客へのヒアリング内容や質問リストの自動生成、補助金進捗管理・書類作成、概算見積作成を効率化することで、月間約70時間の業務時間を削減。
施工管理部では、GASやAIを活用し、住宅設備搬入日の定期連絡を自動化。また、発注書の一括作成により作業の効率化と最終確認のミス防止も実現し、月間合計約3.2時間の業務削減を達成した。
AI推進プロジェクトに参加した全10事業部がそれぞれ成果を上げているわけだが、なぜ1年という短期間で現場実装と成果創出まで実現できたのか。それは、AI活用に臨む企業が直面する「データの整備」という問題を同社が抱えていなかったことが大きい。
AIを活用するためには、AIに学習させるコンテンツ(データ)が必要だ。データが古かったり、事業部ごとで導入しているシステムが異なったりすると、そもそもAIに学習させるデータを整えるという前段階に多くの時間を割かなくてはいけなくなる。
「AI推進プロジェクトのためのデータ整備などはしていません。当社では『足跡残し』と呼んでいるドキュメント、もしくは動画に、業務のマニュアルやプロセス、ノウハウを全て記録しています。そこに情報が集約されているので、今回のプロジェクトでも課題の特定にかける時間を大幅に短縮できました」
また、経営層が現場の取り組みに細かく口を出すのではなく、見守る姿勢が強かったのも心理的安全性につながり、各事業部が成果を上げられた理由なのではないかと中村氏は話す。
「経営層から『AIを使って変えた仕様を逐一報告して』といった依頼はなく、運用の部分は現場に任せてくれていました。ゴールと課題感が明確で、そこまでの道筋がしっかり引けていれば、信頼して応援するというスタンスが私たちとしては非常にやりやすかったと感じています」
AI推進プロジェクトだけでなく、全社的にAIを活用する動きを広げるための取り組みも行われている。半年に1回、全社員が参加できる「AI選手権」を開催。業務削減時間への貢献という点が審査基準となっており、1等を獲得したチームは1人当たり10万円が支給される。
AI推進プロジェクトにより、事業部の業務効率化への貢献が可視化され、社員の内発的モチベーションが高まる。さらに、AI選手権での賞金という金銭的なモチベーションが同社のAI活用の取り組みを強固なものにしている。
専門部署や高度なIT人材がいなくても、適切な学びの機会と現場主導の推進体制、そして日々の業務を可視化・蓄積する基盤があれば、AIは一部の先進企業だけのものではない。そんな可能性を、アイニコグループの挑戦は示している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
倒産寸前なのに年収100万円アップ 売上38億円のV字回復を実現した、山梨のプリント企業の「決断と狙い」
Tシャツなどのオリジナルプリントグッズの製作を展開するフォーカスは2020年のコロナ禍、倒産の危機に陥った。しかし現在はV字回復を果たし、売り上げは約38億円に上る。この5年間、どのような戦いがあったのか?
年商54億円企業を「突然」継いだ兄弟 役員・社員が辞めていく中でも改革を続けたワケ
2023年12月、不動産会社のハタスで衝撃的な事業承継が行われた。当時、20代前半の兄弟が年商54億円の会社を突然継ぐことになったのだ。自分たちなりに改革を進める中で、役員や社員の退職も起こった。それでも改革を続けた2人の経営論を取材した。
負債2億円から売上35億円へ 「自分の代で潰す」と決めた二代目の“悪あがき”が最強のチームをつくり出すまで
2億円の負債を抱えるかもしれなかった状況で家業を継ぎ、”悪あがき”を重ねて売り上げ35億円を達成した清松総合鐵工。どのような改革を経て、V字回復を実現したのか。
なか卯の「床に置かれた食器」問題 企業の沈黙が呼ぶ“将来の波紋”
10月下旬、なか卯での「床に置かれた食器」の写真がSNSで拡散された。その後のなか卯の対応が適切だったようには感じない。では、どのような対応が求められるのか?
「落とし物DX」で売上15億円 競合だったJR東日本も導入した「find」はどんなサービスなのか
落とし物は誰にとっても身近なトラブルだが、その回収はアナログで非効率なままだった。そんな市場を15億円規模に成長させた「find」とはどんなサービスなのかというと……。

