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なぜ1枚550円のシールが争奪戦に? ボンドロブームが示した「レアの正体」廣瀬涼「エンタメビジネス研究所」(2/3 ページ)

転売や価格高騰、窃盗事件にまで発展したボンボンドロップシール。この熱狂を支えている「レア」の正体を探っていく。

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ボンボンドロップシールを「レア」にしたのは、何か?

 あらかじめ公式が設定した希少性や、経年による現存数の減少は、数量や時間といった客観的指標で説明できる「測定可能なレア」である。一方で、ボンボンドロップシールはそうした設計型の希少性とは異なる。消費者の側から立ち上がった「文脈的レア」といえるだろう。

 「人気だから」「○○が使っているから」「ファンなら持っておきたい」といった理由によって価値が付与され、商品は後天的に社会的意味を帯びる。ここで重要なのは、レアがモノの内部ではなく、「語られ方」や「欲望の集中」によって生成される点である。

 典型的なのは、大衆的な人気が価値を押し上げるパターンだ。多くの人が欲しがることで需要が急増し、供給が追いつかなくなる。その結果として入手困難性が生じ、「レア」と認識される。ボンボンドロップシールだけでなく、昨年流行した「ラブブ」も同様の事例といえる。


昨年、大ブームとなった「ラブブ」(画像:POP MART公式Webサイトより)

 実際に検索動向を見ても、その関心の移り変わりは可視化できる。Googleトレンド(日本・過去1年)で「ラブブ」の検索動向を見ると、2025年夏から初秋にかけて検索関心が急上昇し、ピークを迎えた後、秋以降は緩やかに減少していることが確認できる。

 もしかしたらと「ボンボンドロップシール」を同期間で比較したところ、ラブブがピークアウトする秋頃から検索関心が上昇し始めていた。両者の動きを重ねると、あたかも関心が入れ替わるような推移が見られた。

 このタイプの希少性は、物理的な不足よりも、「いま欲しがられている」という事実そのものが価値の根拠となることを示唆している。製造は続いていても、市場で見かけにくい状態が続けば、人々の経験としては“手に入らないもの”になる。こうして需給の偏りが、商品をレアへと変質させる。

 ボンボンドロップシールも、発売当初は一部の層で注目される存在にすぎなかった。しかし2024年後半にTikTokで拡散され、認知が一気に拡大。キャラクターコラボも後押しし、2025年には売り切れが続出するブームへと発展した。


さまざまな人気キャラクターとのコラボで売り切れが続出した

 こうした大衆的ムーブメントの起点は、多くの場合、特定の誰かの発信である。芸能人やインフルエンサーが紹介したり、SNS投稿が拡散されたりした瞬間、市場の評価軸は動き出す。特別ではなかった商品が「価値あるもの」として再定義され、機能や原価とは別の付加価値が形成される。

 ラブブのブームは、その典型例である。韓国のガールズグループ「BLACKPINK」のメンバーであるLISA(リサ)が、2024年にお気に入りのキャラクターとしてSNSで紹介したことが発端とされる。彼女がラブブをモチーフにした衣装でステージに立つなど象徴的な行動を取ったことで注目が集まった。その後、海外セレブやインフルエンサーがハイブランドのバッグにラブブを付けた投稿を発信。人気は一気に拡大し、ラブブにはステータスシンボルとしての意味が付与された。

 ボンボンドロップシールが、コミュニティ内での支持とSNS拡散を通じて徐々に「流行している」という文脈を積み重ねていったのに対し、ラブブは特定の人物の影響力を契機に、価値が跳躍的に押し上げられたケースである。どちらにせよ、こうして生じた入手困難性が、「レア」という認識を形成する。つまりレアは、影響力によって生み出された需要過多の帰結ともいえる。


サンリオのハローキティとコラボしたボンボンドロップシール(画像:クーリア公式通販サイトより)

 だが現代の消費では、もう一歩先の動きがある。人々は「いま人気があるもの」だけでなく、「これから人気が出そうなもの」まで欲しがる。

 例えば「次のシールはこのデザインだから流行りそう」「人気キャラクターとのコラボだから値が上がりそう」といった予測が立つ。すると、「人気が出て手に入らなくなりそう」というある意味その商品に対する期待が、先に需要を作っているのである。

 その結果、前述した例のように、入手するために人が集まりすぎてしまい、供給が追いつかなくなる。すると本当に手に入りにくくなり、「レア」という認識が強まる。つまりレアという状態は、すでに人気があるから生まれるだけではない。「これから他人が欲しがるはずだ」という予測が共有された瞬間から、生み出されることがあるのだ。

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