Amazonの相次ぐ「リアル店舗撤退」が示す 「PoC→いつの間にか撤退」を繰り返す日本企業との"仕組みの差": がっかりしないDX 小売業の新時代(6/6 ページ)
「Amazon Books」(2015年開業、2022年閉鎖)、「Amazon Style」(2022年開業、2023年閉鎖)の撤退に続き、レジなし店舗「Amazon Go」の撤退も発表したAmazon。一見失敗のように見えるこれらの動きの裏で、Amazonは、着実に、小売事業の拡大を見据えています。
日本企業が失敗を活用できない3つの理由
日本企業が失敗から学びを得て方向転換できない理由は、大きく3つあります。
第一に、サンクコストの呪縛です。投じた開発費や社内調整のコストが意思決定者の面子と直結する。失敗を認めて中止を上申すれば、担当者個人のマイナス評価につながりかねない──その恐れから、明確な成果が出ていない場合も、誰も「(この事業は)やめて、〇〇という次の挑戦に注力しましょう」ということを言い出せずに、案件が継続されるケースは少なくありません。
第二に、検証設計の欠如です。多くのPoCは「やってみた」で終わってしまいます。何を検証し、どの数値がいくつを下回ったら撤退するかを事前に決めていないことが散見されます。
Amazonは各店舗の顧客行動データをリアルタイムで追跡し、具体的な数値を公表できるだけのデータ基盤を持っています。日本のPoCで、同等の検証データを蓄積・公表している事例はどれだけあるでしょうか。
第三に、「撤退」を公表する文化がないことです。Amazonは投資家向け情報開示(IR)の一環として閉鎖を公表し、その理由と次の戦略を同時に説明しています。Walmartもかつて店内ロボット企業Bossa Novaとの契約を解除した際、理由を公に説明しました。
日本企業のPoCはどうでしょうか。多くの場合、静かに立ち消えになります。公式な撤退発表もなく、学びの共有もない。結果として、同じ失敗が別の企業、別の部署で繰り返される──。学ぶ機会の喪失が最大の損失なのです。
2015年のAmazon Books 1号店開業から始まった、同社の10年間の実店舗実験では、撤退が次の投資に接続しています。Booksの閉鎖もStyleの閉鎖も、個別に見れば失敗ですが、学習サイクルの一部として見れば「次に進むために必要なステップ」でした。
Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏は2000年に「Amazonのビジネスの本質は人々の購買体験を助けることにある」と述べています。この言葉の通り、Amazonは店舗の形態が変わっても「購買体験を助ける」という目的を手放していません。JWOからDash Cartへ、自社店舗からBtoB展開へ、手段を変えながら目的を追い続けています。
日本企業に必要なのは、最新テクノロジーへの投資ではありません。「やめた。理由はこう。次はこうする」と言える組織設計です。
PoCの成功率を上げよう(=失敗を避けよう)とするのではなく、失敗から学ぶ速度を上げる。撤退を恥ではなく学習の証として扱う。そのためには、PoCの開始時点で検証項目と撤退基準を明文化し、結果を社内外に公表する仕組みが必要です。
Amazonが10年で学んだことの本質は、レジレス技術の進化ではありません。「いつ、何を根拠にやめるか」を組織として判断し、学びを次に転換する仕組みそのものです。
日本の小売企業がこの仕組みを持てるかどうかが、がっかりしないDXへの分岐点になるのです。
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