レジなし店舗「Amazon Go」撤退が、「失敗」ではないこれだけの理由: がっかりしないDX 小売業の新時代(1/4 ページ)
2026年1月27日、そのAmazonが「Amazon Go」とスーパーマーケット「Amazon Fresh」の全72店舗を閉鎖すると発表しました。この事実を「失敗」とだけ捉えるのは短絡的です。
筆者はコンサルティング・アドバイザー業務の傍ら、国内外年間500店舗超の売場を歩き、生活者の立場での体験を繰り返しています。
そんな筆者にとって、レジなし店舗「Amazon Go」の初体験は衝撃でした。ゲートをくぐり、商品を手に取り、そのまま店を出る。レジにおける商品登録作業と決済作業が消えた店舗空間は、小売の常識を根底から揺さぶるものでした。
参考:待ち時間の解消だけではない、レジなし店舗「Amazon Go」の真の狙いとは?
2026年1月27日、そのAmazon.comが「Amazon Go」とスーパーマーケット「Amazon Fresh」の全72店舗を閉鎖すると発表。カメラとセンサーで来店客の行動を追跡し、レジを通さずに店を出るだけで自動決済されるJust Walk Outテクノロジー(以下、JWO)を看板に掲げた店舗の全面撤退を公表しました。
公式発表の中でAmazonは、FreshとGoについて「大規模展開に必要な適切な経済モデルを備えた、真に差別化された顧客体験をまだ創出できていない」と自ら認めています。
Amazonはこれ以前に、書店「Amazon Books」を2022年に閉鎖し、アパレル店「Amazon Style」をわずか2店舗の段階で2023年に閉鎖しています。結果として、Amazonが自ら開発した実店舗ブランドは全て消滅。残ったのは2017年に買収した、約45年の歴史を持つオーガニック系食品スーパー「Whole Foods」だけです。
しかし、この事実を「失敗」とだけ捉えるのは短絡的です。2015年のAmazon Books 1号店開業から、10年にわたる実店舗実験で、Amazonの技術は何を解決し、何を解決できなかったのか。Amazon Go、Amazon Fresh、Amazon Style、Amazon Booksを現地で体験してきた体験から、前後編で分析します。
前編では、技術が何を解決し何を解決しなかったかを、後編では組織学習と日本企業への示唆を論じます。
著者プロフィール:郡司昇(ぐんじ・のぼる)
20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。
現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」シニアフェロー Nextリテール分科会リーダーなどを兼務する。
公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇
公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質2025DX』
Amazon Goはなぜ伸びなかったのか 現地で見えた課題
Amazon Goは2018年にシアトルで1号店を一般公開しました。カメラと棚の重量センサーで来店客の行動を追跡し、商品を手に取って店を出るだけで自動決済される仕組みは、世界中の注目を集めました。
筆者は2018年以降、複数回にわたって各地域のAmazon Goを訪れ、さまざまな購買パターンで買い物をしながら、レシートが届くまでの時間を計測する研究を行いました。その結果、複数の来店客が同じ商品に同時に手を伸ばすなど、誰が買ったか判別が難しい複雑なレアケースでは、人の目で検証するオペレーションが存在していると推測していました。
2024年、その推測を裏付ける報道が出ました。インドの拠点で1000人以上のデータアソシエイトがビデオ画像への注釈付けを行い、AIだけで購入を決定できない場合には人が決定しているというものです。
Amazon側はこの報道に対し、「アソシエイトがレシートを作成するために買い物客のライブビデオを見ることは決してない。ラベリングとアノテーションのステップを担当している」と否定するニュースを出しています。いずれにせよ、AIの精度向上のために人的リソースが不可欠であることは事実です。
しかし筆者は、JWOの技術的課題よりもAmazon Goが伸びなかった根本原因は別にあると考えています。
それは品ぞろえの弱さです。
JWOはそれまでの世の常識を変える顧客体験イノベーションでした。レジに並ぶ必要がない、財布を出す必要もない。買い物のプロセスから摩擦を消し去る体験は革新的でした。
しかし、その革新的な体験を提供する店舗の商品力が、来店目的となるほどのものではなかったのです。Amazon Goの品ぞろえはサンドイッチや飲料、軽食が中心で、ガソリンスタンド併設のコンビニエンスストアに近い水準でした。
生活動線上にあれば非常に便利ですが、類似の店を通り過ぎてまで目的地にする生活者は多くありません。実際にピーク時でも約30店舗にとどまり、3000店舗の計画からは程遠い結果となりました。「レジがないから行く」のではなく、「欲しい商品があるから行く」のが来店動機の本質です。
JWOは来店後の体験を劇的に改善したが、来店動機そのものを生み出す力は持っていませんでした。品ぞろえの弱さが出店拡大の限界を決定づけたのです。
JWOが解決したのは、レジ待ちという顧客の不満でした。レジがないので時間のロスはなく、並ぶことで発生する不公平感もない。レジ待ち客が増えること、レジ不満を持つ客にクレームをつけられることがないので、店員は通常の店舗よりもフレンドリーでした。筆者が訪れた多くのレジレス店舗でも同様の傾向を観察しています。
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