満員電車の先に「出社する価値」はあるか? オフィス=集まるだけの箱から脱却させる3つの機能:「総務」から会社を変える(3/3 ページ)
座席や会議室が足りない、周囲のWeb会議の話し声がうるさい──出社回帰が進む中、現場で起きているのは「家でもできる業務を、わざわざ満員電車に揺られて会社に来て行っている」という空虚な光景だ。意義ある出社にするために、総務パーソンにしかできないオフィスづくりを解説する。
数字の裏にある「無形の価値」をどう測るか
オフィスが投資の対象である以上、投資対効果(ROI)の説明は避けられない。出社率やスペース稼働率、従業員アンケートによる満足度調査は基本だが、それだけではオフィスの真の価値を見誤る。
総務が真に見つめるべきは、数字にはあらわれにくい「組織の熱量」と「知の循環」である。例えば、部門をまたいだプロジェクトの発生数、若手社員の離職率の変化、あるいは「相談しやすくなった」という定性的なフィードバックだ。心理的安全性スコアの変化も重要な指標となる。
出社率という「量」ではなく、出社によってどのような「質」の変化が起きたか。例えば、「予定外の会話からトラブルの芽を摘み取れた回数」などは、数値化は難しくとも、経営にとっては計り知れない価値がある。総務は、こうした「現場で起きているポジティブな変化」を拾い上げ、ストーリーとして経営に報告する語り部となるべきだ。
総務こそが「体験」のデザイナー
オフィスづくりを単なる「管財」や「ファシリティマネジメント」と捉えているうちは、新時代のオフィスは作れない。総務の真の役割は、「従業員体験(EX)の総責任者」である。
経営戦略を理解し、現場の不満に耳を傾け、それを空間と体験に翻訳できるのは総務しかいない。人事のような制度設計の視点と、情シスの技術的視点、そして現場の温度感を統合し、パズルのピースを組み合わせる役割だ。
また、総務には「オフィスの使い手」を育てる責任もある。新しい空間を作っても、使いこなせなければ意味がない。ワークスタイルガイドラインを作成し、自らが率先して新しい働き方を体現し、文化として定着させる。それは、外部のコンサルタントや設計会社には決してできない、組織に深く根ざした総務固有の使命である。
オフィス改革に正解はない。自社にとっての「ベスト」は、自社の文化と戦略の中にしかないからだ。「とりあえず出社」という思考停止を打破し、オフィスを「未来を創るためのエンジン」へと磨き上げる。その最前線に立つ総務パーソンには、ぜひ誇りを持ってこの変革を進めていただきたい。あなたの仕掛ける一歩が、企業の10年後の姿を決めるのだから。
著者プロフィール・豊田健一(とよだけんいち)
株式会社月刊総務 代表取締役社長/戦略総務研究所 所長/(一社)FOSC 代表理事/(一社)IT顧問化協会 専務理事/(一社)日本オムニチャネル協会 フェロー
早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)FOSC代表理事、(一社)IT顧問化協会専務理事、(一社)日本オムニチャネル協会フェローとして、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。
著書に、『リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター、以下同)、『マンガでやさしくわかる総務の仕事』、『経営を強くする戦略総務』
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