「株主のための経営」が企業を弱くする? 内部留保という防波堤(2/2 ページ)
社運をかけた研究開発を行う際、どこから資金を調達するか? 経営者という立場で考えると、内部留保の重要性が見えてくる。
内部留保が会社を未来に運んでくれる
内部留保の重要性はコロナ禍でも改めて明らかになった。長期間にわたり、売り上げが立てられない中でも従業員に給与を支払うことができたのは、内部留保のおかげだ。また、災害や金融危機などの想定外の出来事に直面したときには、事業を継続するための欠かせない資金となる。
ところが、「会社は株主のもの」という考えが主流になるにつれ、株式市場で資本効率に特化した考え方が極端に重視されるようになってきた。
その結果、将来の不測事態に備えるための内部留保を軽視する風潮が広がり、日本の上場企業は短期間で利益を上げようとする「アクティビスト(強欲なシャチたち)」の格好の餌食となっている。未来の幸せが解体されようとしているのだ。
それにもかかわらず、主要経済メディアや有識者と見なされている人たちは「投資家・株主のための経営が徹底されていない」「ただ持っているだけでは資本の効率が悪い」「内部留保を吐き出して株主に還元するべき」といった主張を行い、アクティビストの活躍がコーポレート・ガバナンスの向上に寄与しているかのような間違った報道をする。彼らの中にもシャチの仲間がいるのだ。
アクティビストたちが現在ほど日本で活動していなかった2008年のリーマン・ショック時には、多くの上場企業は株式の持ち合いによる資産、政策保有株式ないし不動産といった潤沢な内部留保を持っていたので、これらを売却することで資本を毀損(きそん)することなく金融危機を乗り越えることができた。
しかし、アクティビストらが連携して高い配当など株主還元を要求することによって、従業員の給与や中長期での研究開発が犠牲になっている。そして、その可能性を疑う能力が、現在の日本の金融庁や証券取引所に欠けていると言わざるを得ない。
会社の中にリスクを取れるお金の「ダム」をつくっておくことが一番大事なのに、そこにお金を回しにくくなってしまったのは大きな問題だ。にわかに株主となったアクティビストやプライベート・エクイティ、その多くが外国人であるファンド株主によって、日本の企業に集積している富が垂れ流しになるようなシステムに日本政府も、金融業界も、証券業界も、多くの投資家も加担している。
働く人たちの未来の幸せへの蓄えである内部留保が、アクティビストによって奪われようとしているのだ。これは日本国民を豊かにするという観点から、すぐにでも考え直す必要がある。
力のある人、お金のある人、声の大きな人が人々から奪い、さらに強くなっていくのを見ながらどこかおかしい……と思っている人に「誠実な仕事とは何か?」を問い直す。
悩んだとき、葛藤したとき、苦しいときに、自分を「誠実な世界」にとどめるための“11の自問”
世界中の財界人から尊敬を集めるシリコンバレー最高峰の日本人事業家である著者が、死ぬときに後悔しない「最高の仕事を生きる」ために魂を込めた1冊です。
著者プロフィール:原丈人(はら・じょうじ)
1952年大阪府生まれ。慶應義塾大学法学部在学中から中米考古学を研究。27歳でスタンフォード大学経営大学院MBA課程に入学。その後、工学部大学院に転籍。在学中にシリコンバレーで光ファイバーディスプレイ開発メーカーを創業。1984年デフタ・パートナーズを創業し、ソフトウエア、情報通信、半導体技術、バイオ、創薬等のベンチャー企業やベンチャーキャピタルに出資、経営を行う。国内でも大阪にデータコントロール社を創業し、社長に就任。1990年代には自身がパートナーを務めるアクセル・パートナーズが全米第2位のベンチャーキャピタルとなり、シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタリストとなる。
1985年にスタンフォードで設立したアライアンス・フォーラム財団は現在、国連経済社会理事会の特別協議資格を有する米合衆国非政府機関となり「世界中に健康で教育を受けた豊かな中間層を生むこと」を目的とした活動を40年間にわたり続けている。並行して各国の大統領顧問や国際機関大使等を歴任。日本では、財務省参与(2005〜2009年)、内閣府本府参与(2013〜2020年)、経済財政諮問会議専門調査会会長代理、法務省危機管理会社法制会議議長などを務める。大阪大学、大阪市立大学、香港中文大学、香港理工大学等の医学部や工学部で教授職を歴任した。著書に『新しい資本主義』『増補 21世紀の国富論』『「公益」資本主義』などがある。
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