採用DXの裏で失われる“企業の誠実さ” 学生が抱く違和感の正体(3/3 ページ)
学生が企業の選考プロセスに参加するかどうかは、そこに「誠実さ」が感じられるかどうかに左右される傾向があるという。AI面接など、採用現場でのDXが進む中、学生は企業の“不誠実さ”を見抜いている。効率化と誠実さを両立させるために、企業にできることとは?
「手間ひま」を求める気持ちの根源にあるもの
リクルートマネジメントソリューションズの調査によれば、本選考中に志望度が上がった理由の第1位は「自分自身のために十分な時間を割いてくれた」であった。学生は、自分に対して「手間ひまをかけてくれること」に企業の誠実さを感じ、入社意向を高める傾向にあるのだ。
業務の効率化を迫られる企業側からすれば、これは学生側の非合理な感情論や甘えのように映るかもしれない。しかし「自分のために手間ひまをかけてほしい」という願いは、自分という一人の人間を、単なるデータやスコアの集合体として処理するのではなく、代替不可能な存在として正面から向き合ってほしいという、極めて人間的な希求ではないだろうか。
効率化と誠実さを両立させるために
企業にとって、採用業務の効率化やDXは不可欠だ。しかし、その結果が「人を機械的にさばく」ものであってはならない。そうではなく「候補者をより人間的に扱うためにデジタルやAIを利用する」という方向性、つまり効率化と誠実さの両立を追求するべきだろう。
AIを、採用担当者が候補者の可能性を多角的に理解し、より良いコミュニケーションを実現するためのパートナーとして位置付けるために、以下の2点を提案したい。
1. AI活用の倫理ガイドラインの策定と公開
AI採用における「ブラックボックス化」や「バイアス」のリスクを抑えるため、自社のAI利用ガイドラインを策定すること。
採用業務に限らず、AIを利用したり開発したりする際のポリシーを明確にし、それを候補者に対して透明性をもって公開することが、企業の誠実さを証明する第一歩となる。策定にあたっては「ソニーグループAI倫理ガイドライン」や「パーソルグループAI基本方針」などすでに公開されている企業のガイドライン、経済産業省の「AI事業者ガイドライン」などが参考になるだろう。
2. 個別最適化したコミュニケーションへの活用
AIを単なる「落とすためのフィルター」ではなく、候補者一人一人に個別最適化した選考プロセスを実現するために活用する。
例えば、AIが候補者の個性を分析し、より個性や強みを発揮しやすいコミュニケーション方法を提案する。採用担当者はその提案に基づいて学生とコミュニケーションをとることができれば、より相手を理解することにつながる。学生も「自分のことをよく理解しようとしてくれている」という誠実さを感じることができるだろう。
相手に対して誠実であるために、テクノロジーの利用を避ける必要はない。AIによって生み出された余力を、いかに人間同士の豊かなコミュニケーションのために役立てられるかが、選ばれる企業であるためにも重要である。
やつづかえり
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
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