攻めの「しんぱち食堂」、守りの「資さん」──すかいらーくが仕掛ける“二段構え”の買収戦略とは?
すかいらーくHDが「しんぱち食堂」運営会社の買収を発表した。すかいらーくHDのM&A強化を掲げているが、小売・流通アナリストの中井彰人氏は「単に『勢いのある店を買った』のではない」と話す。すかいらーくHDの緻密なM&A戦略とは?
すかいらーくホールディングス(以下、すかいらーくHD)が3月24日、炭火焼干物定食「しんぱち食堂」や炭火焼干物食堂「越後屋」などを運営するしんぱち(東京都港区)を買収すると発表した。すかいらーくHDは2027年12月期までに、3〜5件のM&A実施を目標に掲げており、2024年10月には福岡・北九州発祥の「資さんうどん」を買収している。
しんぱちは干物定食など和食を提供する業態として、都心部を中心に、全国で108店舗(直営・FC含む、2026年2月末現在)を展開。2025年10月期の売上高は64億円で、前期比32%増となった。
今回のしんぱち買収も、すかいらーくHDのM&A強化の一つだが、小売・流通アナリストの中井彰人氏は「単に『勢いのある店を買った』のではない」と話す。すかいらーくHDの緻密なM&A戦略の全貌が見えてきた。
攻めの「しんぱち食堂」、守りの「資さん」 “納得”の買収戦略
すかいらーくHDがしんぱちを買収した理由の一つが立地だ。すかいらーくHDの店舗の約7割は郊外に位置しており、同社は今後の人口減少を見据え、都心部での店舗展開を強化している。しんぱちは、都市部を攻略するための強力な武器になるのだ。
一方で、すかいらーくHDは郊外への施策も怠っていない。中井氏は「都心部狙いのしんぱち買収が“攻め”だとすれば、資さんうどん買収は“守り”」と指摘する。郊外のガストやジョナサンを閉店(減損)するのではなく、資さんうどんという別業態へ「転換」することで延命する戦略だ。
立地以外にも、しんぱちには居抜き物件への適応力という強みがある。現在、建築コストの高騰により新規出店にかかる費用も上昇している。そこで重要になるのが、既存の「箱」=居抜き物件の活用だ。「しんぱちが展開する店舗は居抜き物件に“忍者”のように入り込める設計になっており、他業態からの転換が容易だ」(中井氏)
加えて、しんぱちのメニュー展開も、すかいらーくHDにとってメリットが大きい。しんぱち食堂は干物定食を提供しているが、実際に店舗で一から調理しているわけではない。セントラルキッチンで焼き上げたものを、店舗で再加熱して提供している。中井氏は「この提供方法は、すかいらーくHDが持つセントラルキッチンと相性が良い。今後は、しんぱちの調理技術をグループ内の他ブランドへ展開することも見込んでいるだろう」と分析する。
外食産業、特に深夜帯のマーケットはコロナ禍を経て縮小した。多くの企業が深夜営業から撤退したが、その撤退が進みすぎたことで、逆に需要と供給のバランスが崩れ、空白地帯(スペース)が生まれている。深夜・早朝営業を維持する「資さんうどん」や「しんぱち食堂」が好調なのは、ライバルがいなくなった市場を独占できているからという見方もできる。
市場規模が縮小しても、ライバルがそれ以上に減れば、残ったプレイヤーのシェアは拡大する。中井氏は「すかいらーくHDは、こうした『一見終わったと思われる市場』に適合する業態をあえて獲得することで、右肩下がりの日本の外食市場を生き抜こうとしている」と指摘する。すかいらーくHDが選ぶ次の買収先も、こうした戦略に合致したブランドだろう。
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