「SaaSの死」は間違っていない ビズリーチ社長が語る、これからのSaaSの勝ち筋
生成AIがSaaSを代替するといわれる中で「労務市場ナンバーワンを目指す」と宣言する企業がある。同社は現状をどう捉え、勝ち筋をどう見いだしているのか。
生成AIの台頭によって「SaaS is Dead」(SaaSの死)という言葉が注目されている。生成AIが既存ツールを代替することで、業務アプリが淘汰(とうた)されるという危機感を表したものだ。財務や法務に強いAIモデルが発表されるたびに、米Salesforceやfreeeなどの株価が下落している。
SaaS企業に逆風が吹く中、労務SaaSの「HRMOS」(ハーモス)シリーズを展開するビズリーチは「今後10年で国内の労務市場ナンバーワンを目指す」と宣言する。実際に業績は好調で、2026年7月期におけるHRMOS事業の通期業績予想は前年比72.6%増の成長を見込んでいる。
この勢いに水を差すようなSaaS is Deadの言説を、同社は否定したいのではないか。ビズリーチの酒井哲也氏(代表取締役社長)に直撃すると、意外にもSaaS is Deadに同意する答えが返ってきた。その真意とは。
「SaaS is Deadは間違っていない」 ビズリーチ社長が語る真意
「いま起きていることの背景に『社内システム構成をAIで作れてしまうから、SaaSは必要なくなる』という考え方があります。正直、“箱”というものに対してはSaaS is Deadは間違っていないと思います」(酒井氏)
酒井氏は、ITツールや社内システムなどを「箱」と表現する。特定の機能や働きをするだけの“入れ物”という意味だ。その中に「固有性のあるデータ」「企業が役立てられるデータ」が入っているかどうかが重要になる。
「一般化されたデータは極論、要らないと思います。『ChatGPT』『Gemini』から出力されるような情報しかないのならAIと変わりません。労務の業務は単体では箱でしかなくて、データの優位性も高くない。AIで労務ツールを作る企業が出てくるかもしれません」(酒井氏)
勤怠管理、給与計算、入退社手続きといった業務はAIで代替できる可能性があるというのだ。
労務ツールをわざわざ内製する企業は少ない?
HRMOS事業を率いる小出毅氏(執行役員 HRMOS事業部 事業部長)は、別の見方をする。労務SaaSの月額料金が数百円から数千円にとどまるため、工数やコストをかけてAIで内製・維持管理する企業がどれだけあるか疑問が残るという。
「2000年代初頭、インターネットやPCによって『新聞や雑誌がなくなる』『スーパーマーケットは廃業する』『全てがインターネットでできる時代がくる』といわれていたのが、ゼロにはなりませんでした。『絶対になくなる』という前提ではなく、差別化ポイントを磨き続けることが重要です」(小出氏)
ビズリーチが見つけた勝ち筋は
HRMOSの差別化ポイントはどこか。一つは「企業データの活用」だ。多数の利用企業から集めたデータを基に「Aさんの残業時間は平均より多いのか」「Bさんの給与は同クラスの人に比べて妥当なのか」といった指標を、利用企業の要望に応じて伝えている。
将来的には、さまざまな企業の就業規則や報酬制度を集めて「世の中の相場」を作ろうとする動きもあると酒井氏は明かす。「他の企業は概ねこんな規則がある」という参考値を利用企業に提供するイメージだ。汎用(はんよう)的なAIにはないデータを持つことが、SaaS is Deadへの対抗策になる。
もう一つの強みが、転職サービス「ビズリーチ」との連携にある。同社は、HRMOSとビズリーチをつなぐ「人的資本データプラットフォーム」の構築を掲げている。人材の採用、定着、管理といった人事・労務業務を一気通貫させる狙いがある。今後、「HRMOSにためた社内データを用いて、効果的な人材マッチングを可能にする」というような世界観を構想している。
「数値などの構造化データだけでなく、会話などの非構造化データを取り込めれば優位性になります。そこまでアップデートされたSaaS――SaaSという表現が正しいか分かりませんが、そこまでいけばなくならないでしょう」(酒井氏)
HRMOSのアップデートにAIを活用する予定もあり、いくつかの機能が開発されている。小出氏は「AIを機敏に取り入れる」「かなりの数を仕込んでいる」と話す。同社は既に、生成AI関連の特許保有数で国内1位(2025年7月時点)に躍り出ている。
SaaS is Deadがうたわれる時代において、ビズリーチは現実を直視して勝ち筋を模索している。果たして10年後の労務市場はどうなっているのだろうか。
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