熟練工本人も気付いていない「暗黙知」をデータ化する3つの手法 日立「フィジカルAI」の勝ち筋(2/2 ページ)
「2026年はフィジカルAIの時代に入った」――。そう語る日立製作所の吉田順氏の言葉通り、AI活用はデジタル空間から現場へと広がりつつある。AIは“熟練者の勘”をどこまで再現できるのか。日立が取り組む暗黙知の抽出と、その先にある現場改革の実態に迫る。
人の技能がロボットに宿る フィジカルAI時代の現場
抽出した暗黙知の継承先は、若手社員だけではない。フィジカルAI時代には、ロボットなどの機械にも広がる。
「これまではルールベースで同じ動きしかできなかった産業用ロボットですが、フィジカルAIによって、人間のような柔軟な作業が可能になります」
こうした変化により、産業用ロボットの適用範囲は大きく広がりつつある。
同社は産業現場に導入後も自ら学習し続け、作業の速度・品質を向上させるフィジカルAI技術を開発した。
早稲田大学との共同研究により生まれた「深層予測学習」(AIが先の状況を予測し、現実とのズレを最小限に抑えつつ、自律的に行動を決定・実行する深層学習技術)を基に、従来は自動化が困難とされてきたワイヤーハーネスの取り付けなど、繊細で不規則性がある作業をロボットが対応可能にしている。
また、米国に鉄道車両製造の最先端デジタル工場を開設。フィジカルAIを搭載したロボットが80台以上稼働しており、現場の作業をサポートしている。
フィジカルAIの領域では「ロボットを導入するよりも、人を増やした方がコストはかからないのではないか」との指摘もあるが、人手不足の深刻化は進んでいる。同社でも国内外を問わず、特に設備保守(設備の安定稼働を支える業務)の現場などに人が集まらない課題があるという。
これに対し、AIやロボットの導入コストは下がっており、導入の現実性は高まっていると吉田氏は強調する。
同社が目指すのは、人を単純に置き換えることではない。安全性を担保しつつ、人手不足という課題を持つ現場を支える「AIエコシステム」の構築だ。
「これは日立グループだけで解決できる課題ではありません。パートナー企業と共に、社会課題の解決に取り組んでいきたいです」(吉田氏)
日立製作所の「HMAX」が見据えるのは、AIと人が協働して社会インフラを支える、新たな産業の姿だ。
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