毎秒「10回→100回」の動作指示が可能に 日立のフィジカルAI「3つの新技術」とは?
日立製作所は3月23日、JR東京駅直結の協創施設「Lumada Innovation Hub Tokyo」で会見を開き、製造・設備保守・ロジスティクスなど産業現場向けに開発したフィジカルAI技術を披露した。
日立製作所は3月23日、JR東京駅直結の協創施設「Lumada Innovation Hub Tokyo」(東京都千代田区)で会見を開き、製造・設備保守・ロジスティクスなど産業現場向けに開発したフィジカルAI技術を披露した。作業過程で得られる動作データや熟練技能に頼ってきた複雑な作業をロボットに担わせ、自動化が難しかった工程を実用レベルの速度と品質で実現する。
左からフィジカルAI推進センター センター長 青山朋子氏、AI CoE HMAX & AI推進センター本部長兼Chief AI Transformation Officer 吉田順氏、研究開発グループDigital Innovation R&D モビリティ&オートメーションイノベーションセンタロボティクス研究部 山田弘幸氏(アイティメディア撮影)
現場で自律学習し続けるフィジカルAIロボット
日立は、AIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群「HMAX by Hitachi」(以下、HMAX)をグローバルに展開している。その一環として開発したフィジカルAIは、作業過程で得られる動作データや熟練作業者のノウハウを継続的に学習するものだ。
設備の入れ替えや製品仕様の変更があっても、大規模な再学習やシステム改修をせず、最新の現場情報を活用したチューニングが可能になる。今回の技術は、日立のDXブランド「Lumada 3.0」を体現するHMAXの中核技術の一つとして位置付けている。
産業現場では、深刻化する人手不足や熟練技能者の高齢化に加え、技能の継承が大きな課題となっている。多様な製品を扱う現場では、繊細な力加減や動作が求められるため、熟練技能者をはじめとする人手に頼らざるを得ない状況が続いている。そのため汎用性・柔軟性の確保が難しく、変更の多い工程や、複雑で繊細な作業の自動化には課題が残っていた。
こうした課題を解決するため、新しいフィジカルAI技術を3つの要素で解決に導く。第1に「現場で進化し続けるAI」として、作業データや熟練者のノウハウを自動的に取り込みながら、継続的に学習する。AIは反復訓練をし、作業の速度や品質を高める設計とした。
第2に、早稲田大学との共同研究による「深層予測学習」を基盤とした、毎秒100回の動作指示が可能な高速AIモデルを開発した。柔らかい部品やケーブルなどを扱う作業でも、人間に近い速度と精度を実現できるようにしている。毎秒10回程度の指示速度にとどまっていた従来のロボットに比べ、人間の反射的な動作に近い速度で、触覚センサーなどの情報を瞬時に処理しながら、高精度な作業を実現する。
第3に、人の体の使い方に着想を得た「全身協調動作学習」を実現するアルゴリズムを開発した。人が作業内容に応じて最適な姿勢を無意識に選び、全身を効率よく動かす仕組みを応用。ロボットが自律的に作業しやすい位置や姿勢を取りながら動作できるようにした。これによりロボットは、作業品質のばらつきや手戻りを抑え、作業者の負担軽減につなげる。
今後は、グループ内外の現場で実証を進めながら、同技術をHMAXの中核として展開する計画だ。4月には、東京の「Lumada Innovation Hub Tokyo」内に「フィジカルAI体験スタジオ」を開設。顧客やパートナーとの協創を通じて、現場の課題解決を加速する場とする。同スタジオのコンセプトは「フィジカルAIについて知る」「実際に動くものを見て理解する」「ディスカッションする」の3つで、本技術を搭載したロボットを常設展示するという。
フィジカルAI市場は2023年の471億ドル(約7.5兆円)から2030年には1247億ドル(約20兆円)へと拡大する見通しだ。日立は「OT(制御、運用技術)×IT×プロダクト」の全領域を1社で持つ強みと、AI研究の蓄積を武器に「世界トップのフィジカルAIの使い手を目指す」としている。その実現に向けたAIソリューション群であるHMAXは、鉄道領域で列車走行データと環境条件を統合し、エネルギー消費15%減、遅延20%減、保守コスト15%減を実現した。
4月1日には、フィジカルAI推進センターを新設し、センター長として同社の青山朋子氏が就任する。現場で培ったナレッジとフィジカルAIを組み合わせることで、設計から実装、運用改善までを一貫して支援。産業現場の生産性向上とビジネス成長にグローバル規模で貢献する構えだ。
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