「ライバルが使えば勝てない」 日清食品HDの経営陣を驚かせた「AIエージェントの衝撃」
社内専用の生成AIツール「NISSIN AI-chat」を内製開発し、2023年4月から利用を開始した日清食品HD。生成AI導入に先立ち、2021年から「全社統合データベース」の構築に取り組んできた同社には、ある“危機感”があった。
本記事の内容は、RX Japan(東京都中央区)が4月8〜10日に開催した「Japan DX Week」内で実施されたセミナー「対談なぜ企業はデータを活かせない? 日清食品HDが実践するAI×データドリブン経営とは」の内容を要約したもの。
社内専用の生成AIツール「NISSIN AI-chat」を内製開発し、2023年4月から利用を開始した日清食品ホールディングス(以下、日清食品HD)。当初は利用率が伸び悩むという課題もあったが、管理職の役割を見直すことで解消した。
生成AIを活用していく上で避けて通れないのが、データ整備の問題だ。生成AI導入に先立ち、同社は2021年から「全社統合データベース」の構築に取り組んできた。背景にあったのは、カップヌードルやチキンラーメンといった誰もが知る看板商品を持ちながらも、経営層が抱いていたある“危機感”だった。
勘と経験によるビジネスに決別を
日清食品HDは2021年に、社内に散在するデータを集約する「全社統合データベース」の構築に着手した。データの集約と正規化には「何年もかかる」との懸念もあったが「『どんなに時間がかかってもいいからやろう』と決断した」と同社執行役員CIOの成田敏博氏は振り返る。
背景にあったのは、全社共通のデータ基盤があるかどうかが、企業の競争力に決定的な差を生むとの考えだった。同社にはカップヌードルやチキンラーメンといった看板商品がある。しかし、経営層は「従来から勘と経験でビジネスをしてきた。データで判断できる企業にならなれければ、いつか先進企業に置いていかれる」という危機感を抱いていた。こうした危機感が、2025年の全社統合データベース構築につながった。
現在もデータの正確性を高めるクレンジング作業を続けている。かつては人がデータにアクセスして作成していた分析レポートが、今ではAIがデータベースに直接アクセスし、瞬時に出荷実績や分析結果を出力するまでに進化した。
「ライバルが使えば勝てない」 経営陣を驚かせた自律型AIエージェント
成田氏が目下、経営陣とともに議論しているのが「AIエージェント」の活用だ。AIが状況を知覚して、判断と意思決定を行い、目的を達成するために自律的にアクションを繰り返す──この定義を分かりやすく示すため、成田氏は経営会議であるデモを披露した。
それは、Web上の大量のソースをもとにAIが自律的に詳細なリサーチを行う「Deep Research」を用いて「米国市場における競合ブランドの台頭と日清食品HDの戦略」をテーマにレポートを出力させるという内容だ。
近年、米国では韓国ブランドのシェアが急拡大しており、同社にとって無視できない脅威となっているという。この複雑な経営課題に対し、AIに「2030年までの5カ年のビジネスプランを作成せよ」と命じたところ、わずか7分程度で多言語にわたる膨大な情報を整理した詳細なレポートが提示された。「これをライバル企業が使っていれば勝てっこない」(成田氏)
今から1年前に実施したこのデモは、経営陣にも大きなインパクトを与えた。社内における生成AI利用率は7割程度にまで達したが「逆に3割は1カ月に1回も使っていない状態。それは全く許容できない」という認識が、このデモをきっかけに社内で形成されてきているという。
同社では、AIエージェントの導入は、単なるIT導入ではなく「経営」「人事」「デジタル」を三位一体でアップデートする強力な武器と捉え、施策を進めている。
目的が曖昧(あいまい)でもAIに触れ続けるべき理由
一方で「AIエージェント導入企業の95%が成果ゼロ」といった米マサチューセッツ工科大学のレポートが話題に上るなど、AIエージェントに対しては懐疑的な見方もある。
成田氏はこの点について「AIエージェントに対する期待値が高すぎる」と指摘する。「現時点で本質的に業務を変革するAIエージェントの構築に至らなくてもよい。用意できる最先端のAIモデルと社内データによって、今どこまでできて、どこから先が今できないか。その線引きを把握することが重要」(成田氏)
加えて「目的が曖昧でも、AIに触れ続けること」の大切さを強調する。「AIを使う癖がついていないこと、最新のAIで何ができるかを知らないこと。それが一番怖い」と成田氏。誰もが知るブランドを持つからこそ、その現状に甘んじない。日清食品HDはデータとAIの力で新たな成長軌道を描こうとしている。
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