「ANA系Peach」と「JAL系ジェットスター」 二大LCCが選んだ「生存戦略」の分かれ道(2/2 ページ)
大手航空会社ですら収支悪化に苦しむ高コスト時代が到来する中で「安さ」を武器に成長してきたLCC(格安航空会社)は、ビジネスモデルの限界に直面している。「ANA系Peach」と「JAL系ジェットスター」という二大LCCが選んだ「生存戦略」の分かれ道とは?
ANAグループ内での役割分担と、試行錯誤のゆくえ
本体のANAでは最近、赤字路線の再編を進めている。その1つが、Peachが拠点とする大阪・関西空港(関空)発着の国内線だ。
ANA本体は関空発着の沖縄(那覇・宮古・石垣)、札幌(新千歳)の4路線を廃止し、ビジネス需要の太い羽田線のみに集中した。近畿圏のビジネス拠点である伊丹空港と、利便性の高い神戸空港を主力とし、フルサービスを求める層を囲い込んでいる。
一方でPeachは、宮古を除く路線に就航させている。ANAが撤退した関空路線の多くを継承・増便し「関空=Peachの拠点」としての地位を確立した。低コスト構造を生かし、インバウンドや若年層・ファミリー層のレジャー需要を取り込んでいる。このようにANAグループ全体での「すみ分け」戦略が垣間見られる。
またPeachには「24時間空港」である関空を拠点とするハード面での強みもある。騒音規制により深夜の離着陸が制限される成田に対し、24時間運用が可能な関空は、LCC経営の生命線である「機材稼働率」を最大化できるからだ。他社が深夜に機体を眠らせている間も、Peachはフル稼働させて利益を出せる。
ANAグループは旅客事業において、ANAとPeachによる「デュアルブランド戦略」を軸にネットワークを構築していくことを表明している。グループ内での市場適合への試行錯誤が続く中、15年を経て確立された「Peach」ブランドを、いかにして活用していくかが今後の鍵となりそうだ。
Peachに続き、競合・ジェットスターもリブランド
一方、JALグループは、3つのLCCを持つ。中長距離国際線のZIPAIR Tokyo(ジップエアー・トーキョー、以下ZIPAIR)、国内線と国際線を運航するジェットスター・ジャパン(以下、ジェットスター)とスプリングジャパンだ。
ジェットスターは、Peachから遅れること4カ月後の2012年7月に就航した。現在は国内線18路線、国際線7路線を運航する。
ジェットスターは、より「実利」と「機能」に重心を置いた戦略を選んだようだ。2026年2月、豪カンタスグループが保有する全株式を日本政策投資銀行(DBJ)へ譲渡することで合意。これにより、JALとの連携を深めた「本邦資本主導」の新体制へ移行し、2027年までにブランドを一新する。
Peachとジェットスターは、国内線において就航先を始めとした、さまざまな面で長らく“競ってきた”。ブランド力では先にデビューしたPeachが強く、若者を中心に利用者を増やし、就航路線を広げてきた。
一方、ジェットスターは成田を拠点に、Peachが就航していない旭川空港や松山空港などの地方路線や、機内持込手荷物7キロから「追加7キロ」のオプション料金を設けている。帰省や介護、さらにビジネスで使う利用客も少なくないなど、目立たないものの、使いやすさと幅広い層をターゲットに、地道にシェアを拡大してきた。
ジェットスターの知名度は、オーストラリアやアジア諸国などで、Peach以上に高い。ジェットスターの広報担当によると「インバウンド利用も実は多い」という。
通常、関空のLCC国内線は第2ターミナル(T2)を使用するのが一般的だ。だがジェットスターはあえて国際線が発着する第1ターミナル(T1)を拠点としている。これは、海外のジェットスターグループからT1に到着するインバウンド客を、スムーズに国内線へ乗り継がせるためだ。今後、ジェットスターもリブランドすることでPeachに対抗し、独自の経済圏を作ることになりそうだ。
航空業界、生き残りの条件は「選ばれる理由」か?
国内線燃油サーチャージの導入が本格化する2027年度、航空業界の風景は一変しているだろう。もはや「どこよりも安い」という看板だけで客席を埋めることは不可能になる。
飛行機は、単なる「移動手段」から、旅の目的そのものになる――。そのための戦略を、Peachは打ち出してきた。そのリブランディングの在り方は、日本のLCCが「成熟期」に入った証左でもあるだろう。さらに、日本には大手2社以外に、スカイマークなど中堅航空会社も多くある。
大手でも、一般的なLCCでもない、独自の立ち位置を目指すPeachの今後は、果たしてどうなるか。2027年以降のジェットスターのリブランドも含めて、日本の航空業界では生き残りをかけた競争が続く。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ANAは座席指定不可、JALは変動制マイルへ 苦境の国内線“値上げとサービス制限”の真相
ANAは大胆な運賃体系の変更に踏み切り、JALは顧客への寄り添いを重視する戦略を取っている。目前に迫る「史上空前の燃料高騰」が浮き彫りにした国内線ビジネスの限界とは? “運賃値上げ”を見据えた両社の生存戦略を分析する。
「希望退職を募集することになったら、私はJALを辞めます」 日本航空・菊山英樹専務
コロナ禍による国際、国内の旅客数減少が長期化して日本航空(JAL)は苦しい経営が続いている。経営破綻後に当時の稲盛和夫会長(現在は名誉顧問)から経営のやり方を巡って叱責された経験がある菊山英樹専務にインタビューした。
会員数「1億人超え」 欧州最大ホテルチェーンが日本で仕掛ける“脱中国人依存”の戦略
欧州最大のホテルグループである仏アコーが、日本をアジアの最重要市場と位置付け、積極的にビジネスを展開している。2028年には最高級ブランド「ラッフルズ東京」が上陸するなど、攻めの姿勢を崩さない。日本事業を統括するアコージャパンのディーン・ダニエルズ社長に、日本市場戦略の展望を聞いた。
6500室を一斉開業 欧州最大ホテルチェーン幹部に聞く「国内リゾート進出の狙い」
6471室を一斉開業する欧州最大ホテルチェーン 「投資は回収できる」と自信のワケ
日本に商機を見いだした欧州最大のホテル運営、仏アコーは2024年4月1日、日本初上陸となる「グランドメルキュール」12軒と、東京・銀座などで展開している「メルキュール」11軒の計23軒、6471室を一斉開業させる。CEOへのインタビューから日本を“狙い撃ち”した理由や、市場攻略のカギに迫った。
6500室を一斉開業 欧州最大ホテルチェーンが日本を“狙い撃ち”した理由
欧州最大のホテルチェーン仏アコーは2024年春、計23軒のホテルで6500室以上を一斉開業させる。これだけの数を一気に開業させる理由は何か? アコージャパンのディーン・ダニエルズ社長に狙いを聞いた。
販売初日に予約完売 帝国ホテル「サービスアパートメント」事業の開発責任者に狙いを聞いた
帝国ホテルがコロナ禍でのテレワーク需要を先取りして、客室を長期間貸し出す「サービスアパートメント」事業を発表した。販売初日で予約が満室になるなど、人気を博している。この事業に企画段階からかかわってきた小池崇裕企画部課長に、狙いと今後の展開をインタビューした。
アパホテル元谷専務に聞く 赤字だったプール事業を黒字化した一手
アパホテルの新たな可能性を引き出し続けているのが、アパホテル社長の次男・元谷拓専務だ。アパ社長カレーやポカリスエットプールなどを企画・プロデュースする。
コロナ直撃で「稼働率83.5%減」の衝撃 ホテル業界の経営者に求められる対策とは?
新型コロナの影響によって深刻なダメージを負ったホテル業界。PwCコンサルティングは、影響をまとめたレポート「COVID19:ホテル業界への影響」を6月にまとめた。今後の業界見通しと、経営者に求められる施策とは?


