「OpenAI一強」の時代は終焉するのか 急成長「Anthropic」が変えた生成AI勢力図:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」
Anthropicの急成長で、OpenAI一強の時代は終焉するのだろうか。
筆者プロフィール:古田拓也 株式会社X Capital 1級FP技能士
FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経てX Capital株式会社へ参画。
2026年4月下旬、生成AIツール「Claude」を開発する米Anthropicが評価額9000億ドル(約127兆円)超で総額500億ドル(約7兆円)の新規資金調達ラウンドを準備中であると報道された。この調達が実現すれば米OpenAIの8520億ドル(約120兆円)を抜き、世界で最も企業価値の高いAI企業となる可能性を秘めている。
Anthropicの2月の資金調達時の時価総額は3800億ドル。わずか3カ月で2.3倍という異例のスピードで企業価値が膨張している。
Anthropicの急成長で、OpenAI一強の時代は終焉するのだろうか。
OpenAI離脱組が立ち上げた「安全性特化」のAI企業
Anthropicは2021年、OpenAIで研究担当副社長を務めていたダリオ・アモデイ氏と、安全性・政策担当副社長だったダニエラ・アモデイ氏ら兄妹を含む、OpenAIを離脱した7人が設立した。事実上、当時のOpenAIにおける中核人材が独立した格好だ。
兄妹がOpenAIを離れた理由は、モデルの大規模化スピードに対し安全性研究が追いついていないという危機感にあった。
そんな背景もあってか、技術アプローチも独特である。Anthropicは、AIに守るべき原則を与え自らの出力を自己批評させる「Constitutional AI」を基礎として、Claudeを開発した。その甲斐(かい)あって、Claudeはエンタープライズ企業を中心に倫理を重視する慎重な回答で定評のあるAIモデルとなったのだ。
注目すべきは出資・提携の構造だ。OpenAIが米Microsoftの累計130億ドル超の巨額出資と一体化しているのに対し、Anthropicには米AmazonやGoogle、直近ではイーロン・マスク氏率いる米SpaceXとも提携しており、業界横断的な支援が集まっている。
Anthropicへの評価は、一時的な“バブル”だろうか。実は、この急騰は実需に裏打ちされている。
Anthropicの年間換算売り上げは、2025年末の90億ドルから2026年4月には300億ドルまで伸びている。OpenAIの直近約250億ドルを、1年で抜き去った計算になる。
ChatGPTがBtoC向けの象徴であるとすれば、Claudeはコーディングや法務・金融・会計といったBtoBに特化したサービスラインで存在感を高めている。5月にはブラックストーンやゴールドマン・サックスらと、AIを中堅企業に導入するためのコンサル合弁会社を設立し、BtoB利用での立ち位置確立を強化している。
精度と安全性が業務の根幹に関わる業界ほど、Claudeは「安心して業務に組み込めるAI」として支持を集めた。つまりAnthropicは「OpenAIの後発」というよりも「OpenAIがこれまで重視していなかったポジション」を狙って競争力を確保したと捉える方が正確だろう。
「Copilotの裏側」が静かに切り替わっている
日本の経営者が押さえるべきポイントは、すでに多くの日系企業が使っているMicrosoft Copilotの中身である。
OpenAIの最大出資者であるMicrosoft自身が、Copilotの製品群にClaudeを統合し始めている。Microsoftは2025年9月にCopilotへのClaude追加を発表。それ以来、Copilotの裏側にはAnthropicのサービスが入り込んでいるのだ。
2026年4月からは、一部の企業から順次Anthropic製品であるCowork機能やClaudeのAIモデルが選択可能となる。これにより、MicrosoftユーザーもExcelやWord、PowerPoint上でAnthropicのAIモデルが使用できるようになる。
日本企業の多くは、AI活用といえばまずMicrosoft 365 Copilotを導入する流れにある。1年前まで「Copilotの中身はOpenAI(ChatGPT)」というのが暗黙の前提だったが、その裏側が今、静かにマルチモデル化し、用途によってはClaudeが優先される構造へと書き換わりつつある。
国内でも具体的な動きが相次いでいる。NECは4月23日、Anthropicと日本企業初のグローバル戦略パートナーシップを締結し、グループ社員約3万人へのClaude導入と、金融・製造・自治体向けの共同AIソリューション開発を発表した。
野村総合研究所は2025年11月にAmazon Bedrock経由のClaude正規リセラーとなり、楽天もAI部門が経理業務でClaudeを実運用に組み込んでいる。日本におけるエンタープライズ向けのAI導入も、ClaudeがClaudeが存在感を示しつつある。
「OpenAIはオワコン」ではない Anthropic、OpenAI、Googleの立ち位置
ここで直ちに「OpenAIがオワコンである」と断じるのは早計だ。正確には、Anthropic、OpenAI、Googleがそれぞれの得意領域に分化し始めているというべきだろう。
コーディングと業務自動化のAnthropic、汎用チャットと消費者向けのOpenAI、検索統合のGoogle。このすみ分けが進めば、企業のAI導入を「一社に全て任せる」ことは合理的でなくなる。
問われるのは、自社業務のどの領域に、どのモデルを、どれだけ深く入れるかという具体的な経営判断だろう。「Copilotを入れたからAIは大丈夫」という考えは、これからのAI投資判断における最大のリスクとなる可能性がある。
パイオニアであるOpenAIの独走は3年程度で終わった。裏を返せば、これほど短期でイノベーションが起きるのがAI業界である。
トップが入れ替わるのは衝撃的だが、今後はOpenAIも企業価値を上げる形で抜きつ抜かれつの攻防が続くだろう。変化のスピードが速いからこそ、柔軟なAI投資ロードマップを組むことで競争力を維持することを目指したい。
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