「サプライチェーン停止」は突然やってくる 製造業が直面する、リスク管理の致命的な盲点
地政学リスクの高まりや気候変動に伴う災害の増加を背景に、製造業を取り巻くサプライチェーンリスクが増大している。多くの企業がBCP(事業継続計画)を整備する一方で、有事の際に迅速な対応を取れないケースも少なくない。なぜ対応が遅れるのか。
中東情勢が緊迫化。物資が届かず、製造がストップしてしまった――。地政学リスクの高まりや気候変動に起因する災害など、現代の企業を取り巻く外部環境はかつてないスピードで変化している。特に、グローバルに広がる複雑なサプライチェーンを持つ製造業にとって、突発的なインシデントは事業継続を揺るがす死活問題だ。
報道ベンチャーのJX通信社(東京都千代田区)で代表取締役を務める米重克洋さんは「製造業を中心とした企業を取り巻くリスクの発生頻度自体が、近年明らかに上がってきている」と警鐘を鳴らす。
リスクに備え、BCP(事業継続計画)策定に取り組む企業も多い。内閣府の調査によると、大企業のBCP策定率は75.8%に上り、多くの企業が一定の備えを進めている(※)。
※参照:内閣府「令和7年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」
しかし、いざ有事の際、計画通りに迅速な対応を取れない企業も多いという。なぜ、周到に整備したはずのBCPが機能しないのか。製造業のリスク管理に潜む致命的な盲点と、その対策をひも解く。
1拠点の停止が全体を止める 複雑化したサプライチェーンの脆弱性
企業を取り巻くリスクが増大している背景には、国際情勢の変化に伴う地政学リスクと、気候変動という2つの大きなトレンドがある。
例えば地政学リスクの例としては、昨今の中東情勢に伴う原油輸入の停滞によるプラスチックや、ゴム製品の原料となるナフサの供給不足などがある。
また気候変動については、例えば気象庁のデータによると、国内における1時間降水量80ミリ以上の強い雨は、1980年頃と比較して、発生頻度がおおむね2倍になっているという。
こうした中、製造業の脆弱(ぜいじゃく)性の要因となっているのが、多層化・複雑化したサプライチェーンだ。
製品を1つ出荷するために、直接的な取引先だけで数百社、その先まで含めれば数千社に及ぶサプライヤーが関わることも珍しくない。そのうちのたった1拠点が火災や自然災害、あるいは現地のデモやストライキによって停止しただけで、サプライチェーン全体が停止し、出荷停止や受注停止という事態につながる恐れがある。
初動の“前”で差が付く 有事で機能する体制とは
これらのリスクに備え、企業はBCPの整備を強化し、危機発生を想定したシミュレーションを重ねている。それにもかかわらず、有事の際に対応が遅れる理由はどこにあるのか。
米重さんはその原因を「初動の『前』段階、すなわち『危機をいつ、どうやって知るか』という情報収集体制への備えが抜け落ちているためだ」と指摘する。
「多くの企業が『情報は現地から報告が上がってくるもの』という前提に立っています。しかし、深刻な災害や政情不安が起きた現場ほど、通信網の遮断や混乱によって現地からの第一報は滞り、情報はブラックボックス化します。自然に情報が上がってくるという前提が、有事に通用するとは限りません」
また、特定のメディアが発信する情報だけに依存することにもリスクがある。地域の小さなニュースなどは報道されないこともあり、中には偽情報が紛れている可能性もあるからだ。
インシデント発生時における数時間のタイムラグは、経営判断に大きな影響を与える。
「1時間でも早く、インシデントを察知して動き出せるかどうかが重要です。早く知ることができれば、他社に先んじて代替部品の調達や別ルートの確保といった“次の手”を押さえることができますが、出遅れれば、その選択肢を確保することが難しくなります」
危機管理は情報戦へ 「速報性」と「多元化」が鍵
不確実性が高まる時代において、企業の危機管理のポイントはどこにあるのか。米重さんは、重要なのは「情報の速報性」と「情報源の多元化」であり、そのための環境を平時から整えておくことが不可欠だと提言する。
近年注目されているアプローチの一つに、SNSやWeb上の公開情報から有用なインテリジェンスを抽出する「OSINT」(オープンソース・インテリジェンス)がある。
例えば、突発的な事故や軍事行動が発生した際、公式発表よりも早く、現地にいる人々によって写真や状況がSNSに投稿される。一見、断片的な情報に思えるが、これらをリアルタイムで網羅的に収集し、統合して分析することで、現地の状況の深刻さを迅速に把握できるようになる。
こうした膨大なデータを常に監視し、情報の真偽を見極め、自社への影響度をスコアリングする体制を、自社だけで構築するには限界がある。こうした情報の収集・分析プロセスを自動化・高効率化できる外部のデジタルソリューションを、平時から自社の危機管理体制に組み込むのも一手だ。
外部環境を巡るリスクが今後大きく減少することは期待しにくい。直面してから慌てて見直すのではなく、平時にこそ「初動の前」にある情報収集体制に不十分な点がないかを点検すること。こうした備えが、日本の製造業が必要とする真のBCPと言えるだろう。
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