大人の泥団子づくりに1000人のキャンセル待ち ルクア大阪の体験に人が殺到する理由(3/3 ページ)
ルクア大阪が開催した「泥団子づくり」に1000人のキャンセル待ちが発生した。その他にも「ほめるBar」や「お坊さん喫茶」などさまざまなイベントを打ち出し、来館客の心をつかんでいる。ヒット企画はどのようにして作られているのか。イベントを企画するトキメキ事業グループに取材した。
センスや運だけでは生まれない 地道な試行錯誤の歩み
もっとも、これらの取り組みが最初から多くの人を引き付けていたわけではない。当初は、怪しげなイベントと敬遠されないよう、催事スペースではなく、人通りの多い場所にブースを構えた。来館客に声をかけ、当日予約を受け付けるなど、草の根の活動を地道に重ねたことで、知名度や人気を獲得していった。
逆風となったのが、コロナ禍だ。ルクア大阪も一時休館を余儀なくされた。「何かできないか」と、オンラインで妄想ショップのイベントを実施したが、参加者はほぼ集まらなかったという。
「気分が落ち込んでいる時期だからこそ役に立てると思ったのですが、誰も参加してくれませんでした。そこから学んだのは、私たちの主戦場はリアルな場だということです。オンライン上でのコミュニケーションよりも、人の温度感がちゃんと伝わるリアルな場での体験に、皆さんは価値を感じてくれているのだなと気付きました」(大垣氏)
2025年秋、これまでの取り組みが奏功し、それまで販売促進グループ内の一つのプロジェクトだったトキメキ事業部は、独立部署「トキメキ事業グループ」に昇格した。
「トキメキ事業グループは、ファン作りの域を超えて、ルクア大阪のブランドアイデンティティーを作っている。会社の思想やブランディングを担う独立した部署にした方がいい。そう経営層が判断した結果です」と大垣氏は説明する。
トキメキ事業グループの取り組みは、一見すると売り上げに直結しない活動にみえるが、マーケティング調査では、同グループのプロジェクトが、ルクア大阪への接点や入口となる「カテゴリーエントリーポイント(生活者が特定の施設やブランドを想起する際のきっかけとなる記憶や体験)」として強く機能していることが確認されている。近隣の商業施設と比較しても、好意度は倍近い水準に達しているという。
部署化に伴い、グループの守備範囲も広がった。これまでは顧客に向けた体験設計が中心だったが、社員に向けた取り組みも開始。ルクア大阪らしさをどの部署のどの社員でも語れるようにし、20年後、30年後もその思想を継承していく――いわゆるインナーブランディングだ。
その一環として、2050年の未来から逆算して自分たちの商業施設像を描く「未来プロジェクト」や、企画書には書かれない担当者の届けたい価値や思いを掘り起こす「仕事を祝福するプロジェクト」など、新しい取り組みを進めている。
「商業施設という場が、将来的にどう変化していくのかを考えたとき、期待よりも不安の方が大きい部分もあります。ただ、50年後、100年後であっても、人々にとって不可欠な場所であり続けたいと思っています。そのために今、何を仕込み、どう準備しておくべきかを考えています。ただ、それは私たちだけの力で実現できるものではありません。企業やクリエイターの皆さん、そしてお客さまと一緒に関係性をつくりながら、共創していける場にしていきたいです」(大垣氏)
1000人キャンセル待ちのどろだんご企画、たった1人の「ほめられたい」というコメントから始まったほめるBar、お坊さんと生活者の悩みを掛け合わせたお坊さん喫茶。
いずれも、顧客の声からインサイトを起点に企画を生み出し、それを体験として形にすることで多くの顧客の心をつかんだ。販売促進の常識から距離を置いたトキメキ事業グループの取り組みは、商業施設の未来像を描き直す手がかりになるのではないだろうか。
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