「オンライン売上60%超」「Amazonより高く売らない」 英百貨店「ジョン・ルイス」の逆襲劇: がっかりしないDX 小売業の新時代(4/4 ページ)
英国の百貨店ブランド「John Lewis」をご存じだろうか。同社は「オンライン売上60%超」「Amazonと同価格」という、日本の百貨店業界では考えられない特徴を持つ。
英国の百貨店業界は二極化 中価格帯は限界に
JLPの復活は、英国百貨店業界全体の厳しさと合わせて見ると、より重要性を増します。
英国の百貨店業界はこの10年で大きく淘汰(とうた)されました。英百貨店「Debenhams」は2021年、オンライン専門のファストファッションを提供するBoohooに、ブランドとWebサイトを5500万ポンド(約118億円)で売却されました。その際、118の実店舗は引き継がれませんでした。
英百貨店「House of Fraser」も2018年の59店舗から2024年8月時点で15店舗へ縮小しています。英老舗Fenwickも主要となるBond Street店舗を閉鎖し、8店舗体制で再建中です。
英国小売り全体を見ると、2024年に1万3479店舗、1日当たり約37店舗が閉鎖されました。百貨店だけでなく、実店舗小売そのものが選別されているのです。
こうした環境下で、生き残る百貨店は大きく2つに分かれています。一つは、HarrodsやSelfridgesのようなラグジュアリー・観光客・体験特化型です。もう一つは、John Lewisのようなオムニチャネル実装型です。
前者も決して楽な道ではありません。
Selfridgesは2021年、タイのCentral GroupとオーストリアのSigna Holdingに約40億ポンド(約8600億円)で買収されました。その後、Signaの経営危機を受け、2023年にはCentral GroupがSelfridgesの支配権を握っています。
Selfridgesは、2025年1月期に売り上げが7%減の7億7500万ポンド(約1666億円)となり、損失は約1600万ポンド(約34億円)でした。税引前利益は2019年以降出ていません。英国の免税販売廃止で富裕層観光客がパリやミラノへ流れたことも影響していると考えられます。
Harrodsも盤石ではありません。2025年2月期は売り上げこそ10億ポンド(約2150億円)でしたが、ラグジュアリー市場の減速に加え、元オーナーMohamed Al Fayed氏に関連する補償費用6000万ポンド超(約129億円)を計上し、税引前損失3650万ポンド(約78億円)となりました。
ラグジュアリー・観光客・体験特化型は成立すれば強い一方で、観光客動向、免税制度、為替、高級品需要、巨大な店舗投資などの要素に左右されます。誰でも選べる安全な逃げ道ではありません。
中途半端なミドル百貨店は、さらに厳しいでしょう。価格ではEC専業に、体験ではラグジュアリー百貨店に、利便性ではAmazonに負けてしまいます。
John Lewisは、この中間地帯から抜け出すために、店舗を再定義しました。店舗は売り場であり、相談拠点であり、受け取り拠点であり、返品拠点でもあります。さらに価格は主要競合に合わせています。
日本市場への3つの示唆
日本の百貨店も、英国と似た岐路に立っています。
都心旗艦店はインバウンドとラグジュアリーで伸びています。一方で、地方店や中位店は来店頻度の低下に苦しんで撤退が続いています。
そんな中、John Lewis型の選択肢は参考になります。百貨店を「高く売る場所」から「信頼して買えるオムニチャネル拠点」へ変える道です。
必要なのは、まずClick & Collectを標準サービスにすることです。百貨店ECで買い、百貨店、グループスーパー、駅前拠点、提携コンビニで受け取れる状態を作る。これだけでも、百貨店ECの使われ方は変わります。
次に、店舗在庫とEC在庫を近づけることです。EC在庫を倉庫だけに閉じ込めず、店舗から出荷し、店舗で受け取り、店舗で返品できるようにする。店舗を売り場だけでなく、物流拠点として再定義する必要があります。
最後に、価格納得感です。百貨店だから高く売るのではなく、主要競合の価格を見ながら、保証、接客、返品、受け取り利便性で生活者に選ばれる優位性を作る。John Lewisは、これを実行しています。
Ocadoから卒業したJLPは、巨大自動倉庫ではなく、店舗を使ったオムニチャネルで復活しました。しかも、百貨店でありながらAmazon直販を含む主要競合と価格を合わせようとしています。
この逆説こそ、日本の百貨店生き残りに必要な視点ではないでしょうか。
次回は、英スーパーマーケット「Sainsbury’s」の「スーパー内カタログショップ」モデルを取り上げます。食品スーパーの来店頻度に、非食品ECの受け取りをどう重ねたのか。英国Click & Collect実装の本丸に踏み込みます。
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