マイル庶民化で激化する「地上戦」 決済額300万円のANA、生涯伴走のJALに見る勝算(2/2 ページ)
日系大手のANAとJALの両社は、自社のマイルを基盤とした「金融・プラットフォーム企業」への変革に活路を見いだしている。「移動の提供」だけでは維持できないインフラコストを、いかにしてマイルプログラムをベースとした決済サービスによって回収するのか。両社の戦略の違いから、マイル経済圏の展望を読み解く。
定年後もマイルでつながる JALが描くLTV戦略
対照的にJALは、顧客との「一生の付き合い」という時間軸の長さを重視している。
2024年に開始した上級会員の「JAL Life Statusプログラム」は、生涯にわたって積算するLife Status ポイント(LSP)によってステイタスを決め、6段階のグレードを用意した。到達したグレードは一生保持できる仕組みで、LTV(顧客生涯価値)向上を意識している点が、ANAとの大きな違いだ。
上級会員の特典を提供するクレジットカード「JALグローバルクラブ」(JGC)は、2024年のJAL Life Statusプログラム導入時に改定し、新規入会の基準を上げた。一方、既存のJGC会員については、改定後も引き続きラウンジなどを利用できる仕組みとしたため、ANAのような反発は起きなかった。
ANA同様、JALもマイルを飛行機の搭乗以外で提供している。「JALでんき」「JAL光」など顧客のライフイベントに深く入り込むサービスを拡充。他にも年会費5500円で、預金金額に応じてマイルを付与する「JAL NEOBANKプレミアム」や、歩くだけでマイルが貯まったり、くじが引けたりする「JAL Wellness & Travel」、IIJmioが提供するマイルが貯まるMVNO(格安スマホ)である「JALモバイル」などを用意した。
JALが目指すのは、顧客が定年退職などで飛行機に乗らなくなった後も、銀行や健康サービスを通じて収益を上げ続ける「人生の伴走」モデルだ。狙いは、一度“契約”すれば他社へ乗り換えるスイッチングコスト(心理的・実利的障壁)を高めることにある。
既存の顧客権益を尊重しつつ、緩やかに、かつ深く生活に浸透していくのがJAL流のLTV向上戦略だ。
「マイル経済圏」はブランドを傷つけないのか
両社の戦略を俯瞰すると、一つの大きな問いが浮かび上がる。顧客の生活をマイルで縛る行為は、航空会社というブランド価値を、毀損(きそん)するのではないかという問いだ。航空会社として築いてきたブランドを、単なる「ポイントカード」へと貶めてはいないだろうか。
航空会社とは本来「安全」「憧れ」といった無形の信頼により、そのブランド価値が支えられてきたといっても過言ではない。
SFCにおけるルール改定が大きな反響を集めた理由の一つに、航空会社の上級会員制度が「ポイ活」と化していた影響もある。飛行機の搭乗実績を稼ぐためだけに、例えば「羽田=那覇」を何度も往復するという“修行僧”の行動が繰り返された。上級会員制度がいわば“庶民化”したことによって会員数が増え続け、両社ともルール改定に踏み切らざるを得なくなったのだ。制度の“庶民化”と“ポイ活化”は、ブランドの希少性を毀損し続けてきたといえる。
この事態に対し、ANAは既存・新規を問わず「決済額」によって、一律に顧客を区分した。対するJALは、既存顧客の権益を守り「既存顧客を大切にするホスピタリティ」を死守した。両社の対応に明確な違いが出たのだ。これは、単なる規約の違いではなく「航空会社というブランドをどう定義するか」という経営思想の違いを反映している。
生活の全てをマイルで縛る企業戦略の先に、真のCX向上が伴っているのだろうか。航空会社のボラティリティを回避するために構築したはずの「マイル経済圏」が、逆にそのブランドを空洞化させてしまっては本末転倒だ。
マイル経済圏の覇権争いが今、両社の「誠実さ」を問うている。
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