働く高齢者の8割超「誰かの助けが必要」 DXの裏で深刻化する「デジタルの壁」問題、乗り越える「2つの方法」は?(1/4 ページ)
働くシニア世代を悩ませるのが、DX推進によるデジタル化だ。業務遂行にソフトウェアが欠かせないインフラとなる中、今後も増加が見込まれる働く高齢者にとって“働きやすさ”を実現するために必要な考え方とは?
本記事の内容は、SmartHR(東京都港区)が4月16日に開催した勉強会「DX推進が、高齢労働者の活躍を阻む『デジタルの壁』に? 〜2026年4月『労働安全衛生法』が改正、誰も取り残さない『アクセシビリティ』の視点とは〜」の内容を要約したもの。
高齢者の存在感が、労働市場で高まっている。総務省「労働力調査」によると、65歳以上の就業者数は2014年の682万人から10年間で930万人へと増加した。就業者全体に占める割合も10.7%から13.7%へと上昇している。
こうした状況を受け、2026年4月に労働安全衛生法が改正された。改正点の一つが働く高齢者の労働災害防止対策だ。安全衛生管理体制の確立や職場環境の改善、健康・体力の状況に応じた対応など、高齢者が安全に働ける環境づくりが企業の努力義務となった。
改正で求められる対策は、通路の照度確保や作業姿勢の改善といった物理的環境への配慮が中心だ。
クラウド人事労務ソフトを提供するSmartHRの坂巻舞羽氏(アクセシビリティスペシャリスト)は「効率化を目指したはずのDXが、働く高齢者の活躍を阻む『デジタルの壁』になっている。多くの企業でDXが進む中、身体面の安全だけでなく、デジタル環境への適応といったソフト面の整備を含めて、職場環境を考える必要がある」と指摘する。
総務省「令和6年通信利用動向調査」によれば、何らかのクラウドサービスを利用する企業は2024年に80.6%に達した。ファイル共有や情報共有、給与計算、スケジュール管理など、業務遂行にはソフトウェアが欠かせないインフラとなっている。ソフトウェアの活用が必須となる中、働く高齢者にとって“働きやすさ”を実現するために必要な考え方とは?
DXが生む「デジタルの壁」 働く高齢者を阻む4つの壁
ソフト面の整備に必要な視点が、坂巻氏が専門とするアクセシビリティ(サービスや情報を利用できる人や状況の幅広さ)だ。本来は障害者向けの情報保障や設備を整える文脈で使われてきた言葉だが、その対象は今、広がりつつあるという。
「アクセシビリティをもう少し広く捉えると、“誰でも使いやすい”という考え方でもある。高齢者だけでなく、障害者や日本で働く外国人にとって使いやすいかどうかも、大事な視点だ」(坂巻氏)
加齢に伴う身体的・認知的な変化は、デジタル環境でも以下のような影響を与える。
例えば、視力の低下は、小さく眩しい画面の注視による眼精疲労や、視認性の低い文字・色の見落としにつながる。指先の巧緻性の低下は、スマートフォンのスワイプやタップ、マウスのクリックなどの誤操作を生む。短期記憶や同時並行処理能力の衰えは、長文の説明を読む途中で内容を見失わせる。
SmartHRがユーザー企業を対象に実施した調査によると、働く高齢者が操作中に「苦慮している」場面として、以下の4つの障壁が浮かび上がった。
(1)「老眼で文字が見えにくい」「拡大ボタンに気付かない」といった身体的な障壁
(2)「説明文が長いと読んでいる途中で何の話か分からなくなる」「ブラウザとアプリの区別が分からない」といった認知の障壁
(3)「私は無理と決めつけ、最初から自分でやろうとせず管理者に丸投げしてしまう」「次の画面に進むことに漠然とした不安を感じている」といった心理的な障壁
(4)「スマートフォンで画像を撮って添付する方法が分からない」「重要な連絡を迷惑メールだと思って削除してしまう」といった技術やリテラシーの障壁
坂巻氏が注目するのは(3)(4)の障壁だ。これらの壁は個人の困難にとどまらない。障壁があるからと手続きを進めなければ、周囲の誰かがサポートに回らざるを得ないからだ。マニュアルの作成、操作の伴走、トラブル対応──そういった支えるための業務が、新たに発生する。
「効率化を目指して、DXを進める企業は多い。しかしそれが今、高齢者の活躍を妨げるケースも多くある。本人だけでなく、サポートや仕組みを作る側にとっても負担になってしまっている」(坂巻氏)
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