「仕事は楽な方がいい」 ワイン一筋から「デジタル人材」に大変身 キリンDX道場でベテラン社員が学んだこと(1/4 ページ)
多くの企業がDX人材の育成に課題を抱えている中、キリンHDは2021年から、「DX道場」という独自プログラムを展開。受講者の中には、研究職出身ながら業務自動化ツールを使いこなし、具体的な成果を挙げた例も出ているという。同社に話を聞いた。
多くの企業がDX人材の育成に課題を抱えている。特定の部門に偏りがちなデジタルスキルを、どう全社に広げていけばいいのか。全社員対象の研修を行う企業も増えてきているが、「座学で学んでも実践に結びつかない」という声は後を絶たない。
そんな中、キリンホールディングス(以下、キリンHD)は2021年から、DX人材育成に向けたデジタルリテラシーとスキル向上を目指す「DX道場」という独自プログラムを展開。これまでに累計5070人が受講している。特徴的なのは、全従業員を対象としていることと、実践を徹底的に重視している点だ。DX道場を受講した結果、これまで10年以上ワイン造りに携わってきた研究職出身の社員が、業務自動化ツールを使いこなし、具体的な成果を挙げた例も出ている。
デジタルとは対極にある「道場」という名称に込めた変革への意気込みと、受講者のリアルな体験から、これからのDX人材育成のヒントを探る。
デジタルは「特定の部門に押し付ける」ものではない
キリンHDがDX道場を開始したのは2021年7月だ。背景には、デジタルテクノロジーの急速な進化と、顧客の生活や行動がスマートフォンを中心としたものへ大きく変化していく状況があった。
同社は2019年に策定した長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」で、価値創造を加速するICTの実現をテーマに掲げ、デジタルを重要な成長ドライバーと位置付けた。しかし当時の社内は、デジタルやICTは情報部門など特定の人が推進するもの、という考えが根強く残っていたという。
DX道場担当者の野々村俊介氏(デジタルICT戦略部 DX戦略推進室 室長)は、「特定の人や部門だけが推進するというやり方は、目まぐるしく変化する状況を踏まえると限界があります。事業課題やお客さまのニーズを捉えてDXを進めるには、全従業員がデジタルを学び、実際に手を動かして試す素養を身に付ける必要があると考えました。単なる知識の習得ではなく、現場で実践できる人材を育てることが重要だったのです」と振り返る。
こうした認識のもと、キリンHDではデジタルスキルの習得だけでなく、変革のリーダーシップを学ぶ場として、DX道場を立ち上げた。「道場」という名称には「変革に挑む覚悟を持って受講してほしい」という会社の意図が込められている。
DX道場はキリングループの全従業員を対象とし、希望者が手を挙げて受講する。初回募集では150人の育成を計画していたが、応募総数は750人を超え、想定の5倍以上となった。
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